あ。


なんじゃあれ、めちゃくちゃ可愛い。













寒い寒い12月上旬。来年から本格的にこっちに住むため今日はそれの下準備をしにきた。来年から俺は、四国から離れひとり神奈川に住む。部屋を借りたりするのは全部親に任せて、まだ1、2度しか歩いたことのない街を探索中。ぐるぐる巻いたマフラーが暖かい。

暫くふらふら散歩していたら、ふと、視界に赤が映った。店の看板や車じゃなく、もっと低い位置にほわほわと揺れるように映った赤。少し気になって、周りを見渡す、と。俺がいるところから少し離れた道の端。そこで見つけた、すごく可愛い子。

赤くてふわふわした髪に、薄いブラウンの大きな瞳。白い肌は寒さで少し赤くなっている。両手には体に悪そうな色をした外国のお菓子をいいっぱい持って、人にぶつからないようよたよたと歩いている。

女の子、みたいな男の子。

人形みたいに綺麗で可愛いその子だけが異次元みたいで、ついつい見入ってしまった。
そんな俺の視線には微塵も気付かず、どんどんこっちへ歩いてくる赤い子。視線は腕の中のお菓子か周りを歩く大人たちに向けられているため俺に気付かないのも無理はない。


ので、例え周りから多少人が減り随分歩きやすくなったにも関わらずお菓子しか見てなくて俺にぶつかったとしても、無理はないのだ。
それにこれはボヘッとしていた俺も悪い。

ぶつかった瞬間、両手に持ってたお菓子たちが冷たいアスファルトの上に一斉に落ちた。あわあわしなが一生懸命拾っている姿は今まで見たものの中で1番可愛いし、名前も知らない話したことさえないこの子がとても愛おしく感じる。


「すまんの、ぼーっとしちょった」


そう声をかけて俺もしゃがみ込み一緒にお菓子を拾う。すると、下を向きお菓子を拾い集めていた赤い子がその髪を揺らし、少し驚いたように顔をあげた。きっと大きな瞳にはお菓子ではなく俺が映っている。


「…お前、どっから来たの?」


「四国」


「へぇー。四国の言葉って不思議だな」


「これは四国訛りちゃうよ。俺だけの言葉」


「…ぷふっ」


あ、笑った。可愛さ200upなり。


「お前変なやつだな!ちょっごめっ、ぶふっ!ハハハハハ!」


ツボだったらしく、腹抱えて笑い出しやがった。ちょっと、通行人見とるんやけど?どっちが変なやつじゃ、恥ずかしくないんかお前さんは。

そんな脳内ツッコミをかまして、笑うのに必死になってるこの子の代わりにお菓子を拾う。拾いながらひとつひとつ包装のプリントを見てみると、かわいらしく舌をだした金髪の女の子とか、いかにもアメリカ体型ですっちゅー感じの男の子なんかがついてた。書いてある文字は全て英語。やっぱり外国製のお菓子か。


「それさっき知らねー外国人に貰ったんだぜぃ」


「…は?」


笑い終わったのか、目の端に溜まった涙を拭きながら言った。そして、俺の両手にできたお菓子の山から黄緑色の包装がしてある飴みたいなんをひとつとると、すんすんと匂いを嗅いでいる。


「見て、めちゃくちゃ体に悪そう」


すきな匂いだったのか、口では悪く良いながらもすごく可愛らしい笑顔を浮かべてそう言う。可愛くて可愛くてずっと見ていたいけど、…とりあえずこの山をどうにかしてくれんかのう。腕疲れてきたんじゃけど。


「うわっ、おいし!」


「…体に悪そうとか言いながらよぅ食うわ」


「いいにおいしたから」


「ほぅけ」


なんじゃこいつ、
けど嫌な感じはしない。かわええ笑顔で全部帳消しになるってのもあるけど、こいつがだす雰囲気が、一緒にいて息苦しさを感じさせない。寧ろ心地良い。


「あ、俺丸井ブン太!シクヨロ!」


元気に言って、ウインクとピース。俺の心臓がやけに騒がしくなったんがいやでもわかる。
そんな心臓の音を掻き消すかのように、携帯から好きなアーティストの音楽が流れた。


「…仁王、雅治…」


名前を言いながら携帯を開く。それは地元の友達からのメールで、本文を映したディスプレイには"誕生日おめでとう"の文字。
正直、自分の誕生日なんてどうでもよかった。それより今は、初めて会った目の前の子のことを知りたくてしょうがない。

メールには返信せず、マナーモードにして携帯を閉じた。


「…いいのかよ?」


「なにが?」


「メール、返信しなかっただろぃ」


「…なしてわかるんじゃ」


「手の動き見ればわかるっつの。俺天才的だし」


「へぇ…」


一言、また一言。その度俺はどんどん惹かれていく。
目が合えば合う度に、言葉を交わす度に、くるくる表情が変わる度に。一秒一秒、猛スピードで好きになっていくのがわかる。

そんな俺の心情を表すかのように、携帯のバイヴが鳴り続ける。


「お前人気者なんだな」


鳴りやまない俺の携帯を見て、苦笑しながら言われた。

今またひとつ、新しい顔を知れた。それだけなのに凄く嬉しいのは、どうかしてるんだろうか。

けどこの気持ちを知られない様平静を装う。臆病、俺。


「ちゃうよ、誕生日やからいつもは話さないようなやつからもきとるだけ」


「お前今日誕生日なの!?」


「おん」


「早く言えよ〜!えーと…」


急にお菓子の山を漁りだし、


「はいっ!あげる!」


取り出したのは、ピンク色の、ハートが描かれてあるチョコみたいなもん。
掌を差し出すと、その上にコロンと置かれた。丸井(…?)の手の熱ですこし暖かくなったそれを、軽く握り締める。
今度は俺の手の熱で溶けてしまいそうだ。


「………」


「…なんだよ、ありがとうとかねぇわけ?」


「…ありがと」


「どーいたしまして!」


やばい、どうしよか。
12年間生きてきて1番嬉しい誕生日プレゼントかもしれん。


「あ、じゃあ俺そろそろ行くわ!」


唐突に俺の腕からお菓子たちを取り、立ち上がった。
本当に行ってしまうようだ。


…こうしちゃおれん、なんかせなと出会えなくなる…

阿保な脳みそを猛スピードでフル回転させた揚句、でてきた言葉が、



「次に会ったら結婚してくんしゃい」


……これ。
どうしよう、俺の馬鹿!
けどこんな阿保な言葉に対しても、丸井は悪戯っぽく笑ってこう答えた。


「次に会った時、今俺が持ってるお菓子よりもっと甘いもんくれたら考えてやる」


「………」


あ、ちょ、エロい。
何それ12歳の顔やないよ。

でも俺かて負けちょらんよ。


「…約束じゃな」


精一杯、大人びた表情をつくって言った。

それに少しだけ笑って

「んじゃ、ばいばい!仁王!」


って今日1番の笑顔で言うて走り去ってしもうた。










…また会えたらええのぅ…















(あ、携番聞けばよかった)












続きます。




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