「ブン太、ポッキーげぇむシよ」 「やだ」 唇にポッキー当てながら言うやつと一体誰がやりたいと答えるだろうか。なんだその目は。なんだその仕種は。色気漂わせすぎて一瞬人外なんじゃないのか疑うほどだ。普通にやったら薄ら寒い行動がどうしてそんなにも絵になるのか小一時間程問い詰めたい。しかもカタカナにしちゃだめなんじゃないだろうか、いろいろと。 「…すっごいブシャイクになっとるよ」 「うるせぇ俺はいついかなるときもイケメンだ」 「はい、あーん」 「うっ、ん!?」 言葉のキャッチボールがまるで出来ていない上に、持ってたポッキーを突然口に突っ込まれて思わず顔をしかめる。 少したつといい具合にチョコが溶けはじめて口いっぱいに甘い味が広がった。やべぇ、この味ドストライク。 「ムースポッキーにしてみました」 「うん、うまい」 たしかにポッキーはうまい。うますぎて手を使わずに一人で食べ終わってしまった。それを見た仁王がなんか悲壮的な顔をしてるけど相も変わらずイケメンなので爆発しろ。 「ごめんごめん、あまりにもおいしくて」 「せめて棒読みはやめようか」 「でもほんとにうまかった!じゃあ俺次科学室だか痛い痛い痛い痛い!!」 「次は教室じゃろ?さあ、大人しく座りんしゃい!」 逃げるためについた嘘は勿論簡単に見破られた。なんでかって?それは俺と仁王が真に残念ながら同じクラスだから。立ち上がった俺の腰はもやしに見える割にしっかり鍛え上げられた筋力にホールドされなぜか今まで座っていた俺の席ではなく仁王の膝へ座らされた。しかも向い合わせだ。まるで対面座位だ。目の前の白髪頭のせいで忘れるところだったが、ここは教室なのであって、もちろん皆いるわけであって、ちなみにあと五分で教師も入ってくるわけであって。いやまあ今さら恥らいも何もないが、次の授業の教師はなにかと煩いのだ。早く、一秒でも早くこの状況から脱さないとって無表情に焦る俺の気も知らずに、俺の腰を抱え込んで満足そうな顔の仁王にとてもvery腹が立つ。 「なんなのお前ほんとしつこい!」 「しつこいなんていつものことじゃろ」 怒るように言ってみたらにやっとしながら返されました。詰んだ。 確かにね。うん、確かにね?しつこいしねちっこいし絶倫だしその辺は重々理解してるつもりだよ。でもね、こんな時にまでそのしつこさ発揮しなくてもいいじゃんね。なんかもういろいろ酷いじゃんね。 「ええじゃろポッキーげぇむ。うまいし美味いしで一石二鳥ぜよ」 爽やかスマイル☆なんて煽り文句が似合いそうなほど爽やかに、それはそれは仁王史上かつてない程に爽やかに笑った。親父臭い台詞とまったく合っていないことに気付いていないのだろうか?こいつの頭が心配だ、頭の中まで綿毛化してなきゃいいけども。とりあえずキモい。この一言に尽きる。 「爽やかにキモいこと言うな」 「んじゃ、はいお口開けてー」 「…本気で言ってんの?」 「俺はいついかなるときも本気ぜよ」 なぜキメ顔? ああ、こいつは本物の馬鹿なんだ。いつも馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど本当に正真正銘の馬鹿なんだ。教師が来るまであと3分弱。案外頑固な仁王は、きっとポッキーゲームをし終わるまで離してくれない。ならさっさとすればいい話なんだろうけど、ここまでしたくないってはっきりと断り続けてきた手前、今さら後になんか退けないんだ。俺のプライドはエベレストより高いんだぜ。…いや、エベレストは言い過ぎか。 まあプライドの話はまた今度ジャッカルにでも聞いてもらうとして、俺にはこのやりとりの中でひとつ疑問に思っていることがある。 「お前はさ、ポッキーゲームをしたいわけ?キスしたいわけ?」 「ポッキーゲームでキスしたい」 …誰だよこいつにポッキーゲーム教えた奴。ちょっと体育館裏来い。 「なあ、しよ?」 …………あー、もう…めんどくせえ…!!!こいつなんなの!?ちょっと可愛い顔したら俺がするとでも思ってんの!?……するわ!しちゃうわ!!なんで眉毛八になってんだよ!なんでそんな捨てられた子犬みたいな表情してんだよ!イリュージョンか!?イリュージョンなのか!?ずっりぃぞ!!ちくしょおおおおおおお!!! 「……1回だけな」 「!」 負けたよ、俺の負けだ。ごめんな幸村くん。常勝立海テニス部のよくわかんねー怖すぎる掟、破っちまった。でも相手もその常勝立海テニス部だから、許してなんて贅沢なことは言わないけどさ、真田の鉄拳はほんと勘弁してほしいかな。あれ口の中普通に切れちゃうから。たまに口の端も切れて、家に帰るとお母さんがまた喧嘩してきたのかって心配するんだ。 ああ、俺が幸村くんに謝罪してる間に仁王のポッキーげぇむの準備が整ったらしい。て言っても箱からポッキーだすだけだけど。 「ほい、」 「ん、」 それから、ちょうどポッキーが無くなり所謂キスしてるところで教室に来た教科担当の先生に、二人揃って職員室に呼ばれた。 何もかもあいつの、仁王のせいだ。 俺は帰りに例のムースポッキーを奢らせると心に誓いながら説教を受けた。 ... |