「ブンちゃん疲れたー。てか俺の試合見てた?」

「はいはいお疲れ。試合は見てたぜ、幸村くんだけ」

「マジで容赦ないな。癒して」

「俺も疲れてんだよい」

「ほんなら突かして」

「死ねよ」


部活終わり、皆が疲れきってる部室で丸井先輩にもたれかかる仁王先輩は、もはや着替えることすら放置したらしい。
真田副部長の眉間に深いシワが刻まれている。


「ほんましんど。くっそ幸村俺のこといじめるだけいじめて委員会行きおって」

「おっけー幸村くんにチクっとく」

「は!?鬼畜!ここに鬼畜がおる!死にかけの俺になんてこと言うてんねん!」

「仁王君も学習しませんね」


まったくだ。呆れながらに言う柳生先輩に同意した俺だが、ここでわずかな違和感に気付く。いや気付くというか、何かおかしな感じがする。なんだろう、この違和感。


「ブン太、今日弟の迎え行くんだろ?早く帰んなくて大丈夫なのか?」

「あ!忘れてた!」

「ブンちゃんも大変やなあ。てかなんで彼氏が知らんことジャッカルが知ってるん」

「彼氏って誰?ジャッカルは幼馴染みだから俺の事なんでも知ってんの。ところで彼氏って誰?」

「あんまりいじめてやんなよ…」

「ああもう、ほら仁王君も泣かないでくださいね面倒くさい」


弟の迎えを思い出した丸井先輩は、もたれてた仁王先輩を思いっ切り振り落とし見たこともないスピードで着替えだした。早い。きっと今なら四天宝寺のスピードスターにも勝てる。

それにしても、仁王先輩に感じるこの違和感はなんなんだろう。


「よし、行くぞジャッカル!」

考え事のせいで少し手が止まってた俺の横で、スピードスターもびっくりの早さで着替え終えテニスバックをひったくるように掴むと、ジャッカル先輩を見向きもせずにそう言い放ち部室を出て行こうとしする。

と、ドアに手をかけたとこで振り返り一言。


「仁王!お前白石の関西弁抜けてねーぞ!」

じゃあなお疲れ!
続いてジャッカル先輩もお疲れ!と二人して慌ただしく出ていった。きっと他の部員が口々に言ったお疲れ様は聞こえていなかっただろう。

まあそんなことはどうでもいいんだ。
俺はやっと、今の丸井先輩の一言でさっきから考えていた違和感の正体に気付くことができた。

「白石と試合したい、という幸村の我が儘に散々付き合わされた結果だな」

そう、ずっとグチグチ言ってた仁王先輩いわく『幸村部長からのいじめ』とは、『白石と試合したいからイリュージョンで相手して』という幸村部長の突然の要望のことだった。
有無を言わさず満足するまで付き合わされた仁王先輩は、どうやら疲れすぎて口調を戻し忘れているらしい。

関西弁なあ。
普段からイントネーションとかがそれに近いから気が付かなかった。
うん、関西弁。気付いてしまえば簡単だ。

つーか、試合は部長しか見てないだとか言っといて実はちゃんと見てたし、あんだけあしらって塩対応だったのに誰も気付かなかった仁王先輩の口調の違いに気付く丸井先輩マジツンデレ。ツンデレってかそのくらい気付いて当たり前って感じが夫婦みたい。夫婦かよ。





違和感の正体がわかってスッキリしたところで仁王先輩の方を見ると、俺と同じ結論に至ったのか

「ツンデレか…」

と振り落とされた体勢のまま両手で顔を覆い床で悶えていた。


気持ちが悪い。





...




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