数分後、俺と丸井の足元には完全にノびてる体格のいい男が3人。この状況を作り出した張本人である丸井はなんかこう、すっきりした顔をしてる。可愛い。

「……ちょっとやりすぎた?」

「いや、スッキリしたわ。ありがとさん」

「おう。俺もこういうの嫌いだしスッキリした」

「てか俺は真田に黙っちょるけど、こいつらが誰かに言いったらどうするん?」

「ああ大丈夫大丈夫!目覚めたとききっと記憶ねえから!そのくらいにはやったつもり!」

少し前の歪んだ笑顔とは違う、いつも皆の輪の中でしてる可愛い笑顔で丸井は言った。その表情と怖すぎるセリフのミスマッチたるや並ではない。
こいつをテニス部の喧嘩番長だなんて、初めに呼び出したのは誰だったか。

「つーか仁王もさ、なんで中途半端に煽るようなこと言うわけ?いや別に煽るのはいいけどどうせなら思いっ切り挑発しろよ」

「ちょっと戯れて終わるつもりじゃったし」

「ふーん。ならなんであんなイライラしてたの」

「は?あの程度でイライラなんて、」

「俺を誰だと思ってんの、天才様だぜ?お前がイライラしてイライラして今にも殴りかかってやろうとしてたのなんてお見通しなんだよ」

「……」

ちょっと。いや、かなり。驚いた。胸中でこそ毒吐きまくってはいたが、表情や声色はいつも通り『何考えてるかわかんない』ままだったはず。少なくとも足元にいる3人は気付いていなかったし、今までだって気付かれたことはなかった。
いつでも何が起きても同じ表情を保ち、自分が余裕のある人間だと周りにアピールしてきた、だから今回だってイライラを隠してた。平静を装って、相当イライラしてたけど、皆が言う『詐欺師』の下に隠した。ずっと、ずっとそうやって生きてきたんだ。口先だけの嘘は得意だし、実際テニスにもそれを活用してるくらいには自他共に認める『読めない奴』のはずなのに。

なんでこいつはあっさりと見破る?


「俺嘘得意なのになんで、とか考えてる?」

「えっ」

「馬鹿だなお前。詐欺師とかそんなんどうでもいいわ、テニスん時だけで充分。普段からそんな仮面被る必要ねえよ」

「…わからんよ」

「あ?」

お前にはわからん。社交的で、豊かに感情を表現できるお前には、一生かかってもわからん。俺は嘘をつくことでしか自分を表現できなくて、嘘をつくことで自分を守ってきた。それでしか自分ってものを確立できないから、必然的にそうするしかなった。そしたらいつからか詐欺師なんて呼ばれるようになってて、ますます自分自身に嘘を塗りたくるようになった。
ただ、当たり前になってしまえば楽なのに、俺自身は未だに小さく抗おうとしてることだけが、誤算。

そんな俺の気持ちなんか。


「お前自分でうまく嘘ついてるつもりかもしんねーけど、結構わかりやすいぜ?幸村くんとか柳の方がわかりにくい」

「わかってるつもりなんやない?自分のこと過信するのも、」

「いやいやわかるから。お前嘘つくのへたくせえって」

言葉遮られた。それに、何かでがツンと殴られたような衝撃が走った。なんだこいつ。なんなんだこいつ。ただの可愛いチームメイトのままでおってよ。そんな、全然知らん顔で言わんでよ。嘘が下手?初めて言われたわそんなん。

吸い込まれそうに大きな、宝石みたいに綺麗な瞳には、情けなくも狼狽える俺が映っている。


「あ、勿論コートにいるときのペテン?は見破れねえけど。あれ凄いもんな」

真っ直ぐ見ながら何かを伝えるのは丸井の癖なのか。……むず痒い。うん、この表現がぴったり。むず痒い。

「でも、お前はお前だろい?詐欺師の前に仁王って一人の人間じゃん。てか名前忘れたわ。なんだっけ?」

「…雅治」

「雅治?名前までイケメンかよウケるー」


ウケるって言いながら全然笑わないのはすごく現代っ子だなあ。なんて、もはや現実逃避。
2度目の衝撃はかなり効いたようで、いつも無駄に回転の早い頭もペラペラと動く口もまったく役に立たない。あーもう、せめて一個にしてくれ、対応できんから。

じわじわ、じわじわ、心が溶けてくみたいな感覚。指先がぴりっとした。


「とりあえず俺はお前をコート以外で詐欺師だなんて思ったことねえから、俺に嘘つくの禁止な」

男前な表現でそう告げる丸井。まるで神様からのお告げのように俺の心にすとんと落ちる。
働かなった俺の口が動………いやちょっと待て。嘘つくの禁止って、それイタズラも出来なくなるわ。……もしかして、むしろそれが目的だったかこいつ。

「うんまあ、さっきのは冗談だけどさ」

俺の考えを読み取ったように、絶妙なタイミングで言う。
だから、俺は表情に出ないはずなんだよ。


「要はもっと周りを頼れってこと。詐欺師だからとかそんなん関係なく、なんかあったら余裕ぶっこいた顔してねえで素直に助け求めろ。それが出来ねえなら出来るようになるまで俺が助けてやる、1スケットにつきガム3個な」

そう言い切る丸井は、相変わらず初めて見る顔をしていた。ああ、確か下に兄弟がいたんだっけか。けどこう、兄貴よりもっとしっくりくる言葉が………。

あ、

「男前」

「男前?まあ、仁王よりは確実にそうだな」

依然ドヤ顔。なまじ顔がいいだけあって悔しいがものすごく様になっている。
ここで酷い泣いちゃうくらい返せればいいのだが、なんせ俺の脳みそは一発目の衝撃を受けた時からまったく働いてくれない。

なんて情けない。


「イタズラで迷惑かけんのも頼って迷惑かけんのも同じだろい。ペラペラ喋って自分のこと守るのも俺には出来ないからすげえけど、そんなんずっと続けてたらお前潰れんぞ。上手に甘える方法も覚えろよ。暫くは俺がその練習台になってやっからさ」

そう言って丸井は、俺に人差し指を向けニッと笑った。




「…ありがとう」

振り絞ってようやく出た言葉は弱く震えていて、どこまで情けないんだと自分を怒りたくなるけど。目の前で満足そうに笑う丸井を見て全部吹っ飛んでいった。



あかん、心臓が痛い。




(こんなの初めて)












...
男前ブンちゃんすきだが書けない




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