ふわりと笑う姿に心臓を何かで撃ち抜かれたみたいだった。
その子は同じクラスの図書委員で、俺が普段話すようなやつらとは違うタイプのいわゆる大人しい清楚系。クラスの中ではたぶん地味なグループにカテゴライズされると思う。白い肌、膝丈のスカート、一番上まできちっと閉じられたシャツ、絶滅危惧種認定確実の三つ編、縁なし眼鏡。ここまで揃えば国家で保護されてもいいレベルだろう。俺の周りからの評価は悪いというより何も無い。そんなやついた?って返されるなんて当たり前。どんだけ影薄いんだよって話だけど、俺も好きにならなかったらたぶんこんなに見ることなく卒業してたと思う。ほんと、無理やり仕事押し付けてきた図書委員の顧問に感謝だわ。頼まれた時はこのババア一回ぶん殴りたいとか考えてたけど今ではもう折菓子持って挨拶に行きたいくらい感謝してる。
清楚で目立たない彼女だけど、よく見ると実はびっくりするくらい美人だ。化粧も何もしていないのにものすごくクオリティが高い。香水ではない、柔軟剤か何かの良いにおいもとてもポイントが高い。そもそも普段絡まないタイプってだけで新鮮だしなんだか少しドキドキする。

切原赤也、14歳。恋をしています。

好きになってからはもう大変だった。ご飯中も、部活中も、授業中も、いつだって彼女のことで頭がいっぱいだ。寝る前も考えちゃったりして、その、…何回か抜いたりもした。ご馳走さまです。けれど頭の中でひとり考えるのには限界があって、話したり触れたり出来る距離にいるんだからすごく話したい、し、やっぱり最終的には付き合いたい。
これは俺にとって人生で初めてのちゃんとした恋だ。幼稚園の時に好きだったあけみ先生とか、小学生の時に好きだったみゆちゃんとかとはなんかこう、本気度が違う。俺自身少し成長したってのもあるんだろうけど、今までと違い彼女のことはひとりの人として好きなんだ。

そんな半年かけて膨らむとこまで膨らんだ想いもそろそろ破裂してしまいそう。しかし何の知識もない今破裂したら最悪彼女に引かれるか避けられるかの事態に陥りかねない。問題だ。大問題だ。由々しき事態だ。由々しきって何?いやそんなことはどうでもいい。

少しでも恋愛偏差値を上げるべく、とりあえず昨日手当たり次第に買った雑誌を読んでみる。…………意味がわからん。雑誌に書いてあるのは所詮すべて『イケメンに限る』ものばかりだ。ふざけんな。こういうのは幸村部長とか四天宝寺の白石さんとかじゃなきゃ通用しねえんだよ、世の中そんな甘くねえんだよ。
雑誌はダメだ、役に立たん。あ、今のちょっと副部長っぽい。
次なる手はネットだ。さっそく愛用のアンドロイドちゃんを起動させ『女の子 落とし方』でグーグル検索。アイフォンじゃなくアンドロイドってとこがポイントだしヤフーよりグーグル派だ。お、でてきた。…………………ネットはやめよう。なんかデカマラ広告ばっかでうぜえし。そんなにちんこが重要かよ。ちんこでかければモテるとかそんなこと聞いてんじゃねえよ。ちんこ見せる関係まで持って行く方法を聞いてんだよこっちは。童貞ナメんな。
俺の少ない脳みそでは、恋愛偏差値をアップさせる方法はあとひとつしか思い付かない。しかし一歩間違えば大火傷するとても危険で少しめんどくさいことになりそうな方法だ。けれど背に腹は変えられない(最近覚えた)。大好きなあの子に近づくためだ、一か八かで試してみようじゃないか。

意を決した俺はさっそく実行するために3年B組へと向かった。昼飯を食べながら雑誌を見て、その後ネットをサーフィンしたから昼休みの残り時間はあと30分程度。わりと長いタイムリミットである。嬉しい。
それでもなんだか時間が惜しくて廊下を走り階段を掛け上がった。しかも段飛ばしでだ。部活前にこの体力の消費は普段なら絶対避けていたが、思春期の恋を前にそんなこと言ってられないだろ。まさに恋に恋する乙女状態。
3年B組に着き目的の人物たちを探そうと教室を見渡すと、もはや指定席と化している窓際最後尾に居た。机の上にはお弁当が二つとその他いくつかの菓子パンとお菓子。いくら運動部だからって二人で消費する量じゃないのはそこに丸井先輩がいることでまったく不思議じゃなくなるから不思議だ。ん?自分で何言ってるかわかんなくなってきた。
なんでこの二人なのかって、そりゃあ二人ともアホみたいにモテるからだ。イケメンなのはわかってる、けど性格がこんなんなのにモテるなんてきっと何かあるに違いない、俺はそこを聞きたい。男同士で付き合ってるし周りが頭抱えるほどバカップルだけど恋愛偏差値は俺が知ってる人間の中ではトップクラスのはず。……神様マジ不公平。
とにかく、俺がここに来た理由、つまり恋愛偏差値を上げる最後の手段を一刻も早く実行するべく向き合って仲良さげに食べてる二人の傍に向かうと、丸井先輩が気付いてくれた。隣にいる仁王先輩からの邪魔しに来たなら殺すぞオーラは頑張ってスルーさせてもらう。


「ちょっといいっすか」

「ん?いいけどどうした?」

小首を傾げながら見上げてくる丸井先輩が普通に可愛くて一瞬にやっとしそうになった、危ない危ない。こりゃ仁王先輩も落ちるわ。
まあそれは顔に出すと隣にいるミステリアス()系イケメンがムカ着火ファイヤーするから何事もなかったかのように近くの椅子を引っ張ってきて座る。この間約90秒。たぶん。


「あの、女の子の落とし方教えてください」


至って真剣に訊く俺を前に、たっぷり10秒きょとんとしてから、二人揃ってすげー笑われたのは言うまでもない。

いいから早く教えてくれ!!!







...




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