▼仁王と幸村


「ここで、俺がブン太に初めて可愛いって言った時の話をしようと思う」

「いつものキモイ訛とれてるよ」

「キモイ言うな。ちょっと思い出したけ聞いて」

「どうぞ」

「あれはそう、入学式からそう経ってないある日のこと…―――」





「………………廊下でな、友達に囲まれとるブン太を見たんよ」

「あ、モノローグ的なものに入るんだと思ってた」

「俺もそのつもりやったがめんどくさいけん普通に話すわ。でな、三年前のブン太って今より小さくて今より子供っぽかったやろ?あどけないっちゅーか。であの性格でいつも人の輪の中におったから、俺が関わる機会なんてなかったわけよ」

「仁王は当時から陰キャだったからね」

「クールって言うてお願いやから」

「で?そんな陰キャ根暗若干キチで人気者のブン太に関わることなかった仁王はどうして可愛いなんて本人に言えるまでになったの?」

「話進めたいんか貶したいだけなんかわからん…けどまあ話進めるな。ブン太の顔って俺のドストライクど真ん中やけ廊下で見たときからずっと可愛いなー可愛いなーて思っとった、そんな時よ。1年の時、隣のクラスとの合同授業みたいなんあったじゃろ、あのようわからん環境がどうとか職業がどうとか言うやつ」

「ああ、あったね。教室ぎっちぎちになる甚だ迷惑な授業」

「それそれ。それで、1年の時はブン太隣のクラスやったけん一緒に授業受けることになったんじゃ。席フリーでたまたまブン太と隣になったんよ。その時に初めて話して、まあ初めて話したにも関わらず仁王少年はいくら顔がドストライク言うても男相手に可愛いなんて言ってまうわけやけども」

「うわあ、それはドン引きだ」

「自分でも引いたわ。…いや、少し弁解させてもらうとな、ブン太あの頃すっごいコロコロ表情変わるやつやったじゃろ?しかもあのクソ可愛い顔で。ほら、可愛い」

「ほんとにブン太の顔好きだねお前。俺も好きだけど」

「あれは万人受けする顔じゃろ。で、な。あんまりにも可愛いからぽろっと、ほんま、ほとんど無意識に可愛いって言ってもうて」

「ふうん。なんか言われた?」

「でかい目ぱちぱちしたと思ったらそれまでで一番可愛い満面の笑みで、知ってる、……て」

「あー、言いそう」

「なんかこう、美人で頭もよくて大人しい超絶清楚なクラスの女の子が実はクソビッチだったって知った時と似たような感覚じゃった」

「夢見すぎだよ。綺麗な薔薇には棘があるって言うだろ?可愛い子、美人な子、頭いい子。外面がいい人にはだいたい裏があるんだって」

「そういうのって女だけやと思っとったんじゃ仁王少年は!そっから何が良かったんか知らんが嬉しいことにブン太が俺に絡んでくれるようになってのう。話してくうちに本性知ったけどなんかもうそんなんどうでもええくらい好きになっとった」

「え、ちょっと待って急に馴れ初め話になってない?のろけ?これから俺のろけられるの?」

「可愛いの自覚済みやし、どうしたら可愛くなるかとか周りが許してくれるかとかも知っとったし、ただの甘えたかと思えばたまに男前炸裂するし、勝ち気な態度とプライドの高さにジャイアンってよりもはや女王様やけど、今では全部ひっくるめて可愛いし愛しすぎて胸が苦しい」

「…………気持ち悪!気持ちが悪い!!!」

「え!?」

「こっちがえ!?だよ!なんだ最後の締め括り!気持ち悪すぎて胸が苦しいよ!!」

「パクるな!」

「なんだよ怒るなよ意味わかんない!」

「あ、わかったあれじゃろ、自分もブン太大好きやのに結局俺としっぽりいったこと僻んでるんじゃろ」

「お前頭大丈夫か。たしかにブン太は大好きだけど恋とかじゃなく愛娘みたいなんだよね。だから仁王と付き合ってるのはもちろん認めてないし許してないから覚悟しておいて」

「お、お義父さん…!」

「ちなみに母親は柳でお祖父ちゃんは真田」

「なんじゃその無理ゲー」

「ふふ、そのくらいのことしてるって自覚持てよ。ウチの愛娘に手出しておいてタダで済むわけないだろ」

「怖い急に怖い!肩にかけたジャージひらひらさせるんやめて!」

「お兄ちゃんがジャッカルで弟は赤也にしよう」

「D1だけ仲間外れいくない」

「柳生も家族にしたいところなんだけど、友達が一人もいない可哀想な陰キャ根暗若干キチの仁王くんの唯一の友達ってことにしといてあげる」

「そんなに罪か?愛娘に手をだしたのはそんなに?」

「当たり前じゃない」

「てかその言い方でいったら、おたくの愛娘さん陰キャ根暗若干キチに惚れとることになるんじゃけどいいん?」

「そんな社会不適合者にも分け隔てなく接してるウチの子マジ天使」

「末期や…お義父様末期や…」

「失礼な、娘を愛して何が悪い」

「まあ娘と違うんじゃがの」

「娘だよ、愛娘。まあ何かの弾みでセックスしたいなーとは思ってるけど」

「しっかりアウトじゃなそれ」

「顔可愛いんだからしょうがないだろ!」

「お前さんならちょっと声かければすぐ相手捕まるじゃろうに」

「……俺って美しいだろう?」

「…………ん?」

「こんなに美しい俺の相手を出来る人間って、限られてくると思わないかい」

「頭おかしいとは思う」


「その辺の人間なんかじゃ出来ないだろ?」

「単純にブン太がタイプなだけなんじゃろ」

「フッ…そうとも言うね」

「なんっ、なんかもうアホか!さっきからずっとアホか!」

「アホとはなんだよバカ!」

「小学生みたいやね」

「いいのかい?俺をそんな哀れんだ目で見てもいいと思ってるのかい?」

「いいも何も実際哀れんどるし」

「ここで、俺がブン太に初めて可愛いって言った時の話をしようと思う」

「……ん?」

「たしか1年の時かな、言っちゃった理由は本当に残念ながら仁王と大差ないんだけど。その時のブン太はそれまで見た中で一番可愛かったなあ、顔真っ赤にして俯いてさ、小さい声でありがとうって」

「………ん?んんん!?」

「顔真っ赤、って俺が笑ったら、急にそんなこと言われたらこうなるってば!とか言って軽く睨んできたんだけどさ、涙目なあの可愛い顔に下から睨まれたって怖くないしむしろそそるよね」

「ちょっと待て!ちょっと!落ち着け!」

「お前が落ち着けよ」

「俺の時と反応違いすぎじゃろ!おかしい!!」

「だってほら、俺ブン太の憧れの人だからさ」

「…うっわ、くそ、それ反論できんやつじゃ…くっそ!」

「ふふん、ブン太の可愛さについて語るなんてまだまだ早いよ」










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