関西は東京基準で見たら南の方やから寒くなるのも遅いんやろ、て思ってる人が多いらしい。アホか。お前らみんなまとめてアホか。東京より南寄りやいうても流石に12月は普通に寒いねん。せやから気温が高い昼ならまだしも、ちょうど空気が身に刺す冷たさになる夕方に呼び出す謙也さんはほんまあほちゃうんかと思う。それでもあとで善哉おごってくれる言うとったから行ってあげることにした、俺は後輩の鑑や。
上はマフラーぐるぐる巻いて大きめのヘッドフォンを耳当て代わりにしとるからまあ大丈夫。せやけど下は大変や、もう凍結しそう。スウェット一枚はあかんで、上との温度差激しすぎて今にも死にそうや。バリ寒い。前にあのヒヨコ頭に馬鹿にされたからって意地で股引き履くのやめたんが全ての原因やな。今時の股引きオシャレやん。別に履いてたってええやん。くそヒヨコ頭め。おかげで俺の足は今にも凍りついてしまいそう。


そんなこんなを悶々と考え歩いてたら、ちょっと先の自販に白石部長がおった。部長も俺に気付いたらしくなんやパクパク口動かしとるけど、ヘッドフォンから流れるエメラルドグリーンの髪したツインテールの女の歌声で何も聞こえへん。
別にええか、俺は用事あらへんし。
軽く会釈して通りすぎようとした、のに、急に音楽が遠退いて頬に当たる刺さるような冷気が耳にも刺さった。驚いて振り返ると案の定、部長の几帳面にテーピングされた指に包まれた俺のヘッドフォンが。

「…何してんすか」

「先輩が必死こいて話しかけとんのに会釈だけはあんまりやろ」

そんなことかい。案外縦社会とやらに厳しいんやなあって他人事のように思ったけど、めんどくさくなりそうやから口には出さんでぐっと堪えた。偉いで、俺。

「財前、寒いんやろ?」

「部長は元気そうっすね」

実際、肩を竦め身を縮めた猫背で歩く自分と比べ、部長はいつも通り背筋しゃんと伸ばして颯爽と歩いてる。健康オタクだかマニアだか知らんけど、そういえば部長が体調を崩したのは見たことがない。血もめっちゃサラサラしとるし(※体験談)

「なんやキモいっすわあ」

「まてまて、自分ものの10秒で何考えてん」

「別になにも」

「嘘やん!」

「もう、俺急いでるんではよ通してもろてええすか」

一向に離してくれそうにない部長の目を見て強めに言った。けど、やっぱ離してくれそうにない。なんで今日こんな絡んでくるんやろ。



「あー、せや、ほら、これあげる」

俺の不機嫌さなんて丸っと無視して笑顔になった部長が、そう言って渡してきた缶には『おしるこ』の文字とキャッチーな小豆の絵が。

嬉しいなんて、そんな。

「……しょうもな」

口から出たのは、いつも通りの言葉。

「なんて?」

「ありがとうございますーって言いました」

「いやいやいや。完璧嘘やんか」

あー、こういうとこはやっぱりめんどくさい。生真面目っていうか、いちいち突っ込んでくるっていうか。いや、突っかかってくる、のが正しいか?

つか何で知ってんねん、

「財前、これ好きやろ?」

俺がコレ好きやってこと。

「別に。ただ、何飲もうかなって考えた時結局毎回買ってまうってだけっすわ」

「うん、そういうの世間では好きなものって言うんやで」

「好きちゃいますって。だいたい缶のおしるこ好きな中2なんて聞いたことあります?」

「目の前におるし」

「せやからちゃうて」

「自分、善哉とか甘いの好きやろ?せやったらこれも好きなんちゃうかなーって思ってん」

「…気にくわん」

なんでも見透かせるんかこの人は。きも。

「飲まんの?おごりやで」

「…飲みますけど…」

くそっ、なんで俺こんなん好きやねん!ほんま悔しい。
アホな謙也さんどころか普段俺の周りにいる人らは誰も気付けへん(気付いてほしくないけど)ところに気付く部長。これでモテへん方がおかしいわな。

「にしてもおしることか渋いなー」

「好きなんやからしゃーないすわ」

「見た目とのギャップ半端じゃないで」

「それよう言われます。せやから人前で飲むん嫌なんすよね」

「ええやん、好きなもん飲んでるだけでネタになんねんで?めっちゃおいしいやん!」

「財前が善哉好きってだけで結構笑い起こりますけどね、不本意ながら」

「俺も最初聞いたとき持ちギャグなんかと思った」

「まさか。静かに生きたい俺が持ちギャグなんて考えるわけないでしょ。部長の叫び癖は持ちギャグですか?」

「叫び癖て…。あれは別にギャグやないで、ほんまにエクスタシーや思うときしか叫ばへんし」

「へぇ…。…あ、無くなってもうた」

「よしっ、ほな謙也ん家行くでー」

「ん?なんでそれ知ってるんすか?」

「俺も謙也に呼び出されてんねん。財前もくるでーて言うたしな」

「へー」

会話はそのままに、二人そろって歩き出す。近くにごみ箱ないからおしるこの缶は持ったままやけど、わざわざ出向いてるんやから謙也さんに向かってコレ捨てても罰は当たらんやろ。



謙也さんの家まで行く道中。部長は相変わらずで、部員のことばっかしゃべる。やっぱみんなんことよー見てんねや、って再確認した、不本意ながら。
けど 千歳ってああ見えて意外と空気読めるんやで は絶対嘘や。もしくは買い被りすぎ。



「ん?どないしてん」

「いや、部長ってやっぱり人のことよう見てるんすね」

「おん、部長やからな」

そう言って笑った部長の顔があまりにも綺麗で、うっかり惚れてしまいそうになった。





なんて俺がなるわけもなく、綺麗なんて思うわけもなく、それでも、部長として、先輩として人として、少しだけ尊厳とか憧れの念とかが増した気はした。



せっかくあったか〜いだったおしるこがこの気温のせいでぬる〜いくらいになってたとこがなかったら、完璧やったのになあ。







...
まとめ方なんて知らない
起承転結なんて知らない




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