今付き合ってる奴を、運命の相手だって言い切ってみたり。君以外いないんだ(例の背景トーン)なんて言ってみたり。
運命とか一生とか永遠とか、そんな非現実的なことは物語の中だから発生するのであって、俺らが存在している世界、つまり三次元では起こり得ないと思っている。
ラブコメやラブロマと称される二次元創作物にのみ存在し、それらを見たこちら側の人間は、そのあまりの非現実的さに胸を高鳴らせるのだ。

あなたと一生を添い遂げたい。あなた以外には何も要らない。

…如何にも虫酸が走る台詞である。が。しかし。どこをどう間違ってしまったのか、俺の目の前のにやにやと見つめてくるこの変人には、作り話の中でしか聞かない甘ったるくて鳥肌立つ様な台詞がぴったり当てはまってしまう。

いつ、どこで、何を、間違えたのか。


「なら言うて」

「絶対やだ」

「一回くらい言ってくれてもええじゃろー」

「嫌だ嫌だ嫌だ」

当てはまるとは思ったけど、言えるなんて微塵も思っていない。むしろ俺らに甘ったるい言葉なんて似合わない。
ラブコメラブロマの主人公、お前らすげーよ流石主人公だわ。

そうだ、流れを変えよう。

「つか、そーゆう仁王は言えんのかよ」

「言える」

「ほんとだな?はい、ドーゾ」

「こんなにもひとりの人を愛したことがない。俺はこの先もずっとずっとブン太の傍におるき、ブンも、俺の隣で笑っててください」

「……」

ちょっと待て、ちょ、あの、え、あの、あ、あれ。か、かっこよすぎる、だろ。仁王なんて本来かっこいい生き物じゃない筈なのにかっこよすぎてなんだか直視できない、どうしよう。

「ブン、」

ああもうこっち見ないで俺今きっと顔真っ赤だから。照れすぎて死にたいから。

「顔真っ赤やね」

「っ…」

「可愛いわあ。絶対に離さん。逃がさん。」


ああもう!嬉しいなちくしょう!くっそ、

「大好きだよばああああか!」

「え、何!?どしたん!?」

「うるさいうるさい!お前なんか大好きだよ!好きすぎてどうにかなりそうだよばああああか!てゆか一生一緒って何結婚でもする気!?」

「お、おん」

「まじでか!」

どうやら俺と仁王は結婚するらしい。海外かな?なんてどこか他人事になってしまうけど、しょうがない。とりあえずまだ許して。
一人でもやもや考えてると、それを見て何故か不安になったらしい仁王が少し困ったような顔で嫌?と聞いてきた。あれだけ自信満々に言ってたくせに、いざ相手の反応を伺う場面に立たされるとどうして中途半端にへたれなんだろう。
そしてまあそれはそれで可愛いななんて思っちゃってる俺は相当毒されてる。

「嫌じゃないから困る」

「せやろ」

僅かに目を細め、唇だけでフッと笑う。そのまま唇が俺に近づいて、甘い甘いキスが落ちる。
俺が肯定したとわかった瞬間にさっきまでのへたれ感は吹き飛んだらしい。なんて都合のいい脳みそだ。



物語の中でしかないと思っていたことが現実になった。正直嬉しいのかはわからない。ただ、作中のどんなイケメンが言っても、どんなに可愛い子が言っても寒い寒いと鳥肌しか立たなかった歯の浮くような台詞が、相手を仁王に変えただけで物凄く照れた。好きが溢れて軽くパニックも起こした。
俺からも同じこと返したいけど今は照れと恥ずかしさで上手に言えないだろうから、一言だけ。



「愛してる、仁王」















「俺あの時ブンが可愛すぎて死ぬんじゃないかって思った」

タキシードに身を包んだ仁王が、思い出したように始めた懐かしい話。
たしかまだ14歳とかその辺だったか。

「仁王からの1度目のプロポーズな」

「あれもう内心ばっくばっくじゃった」

「俺一字一句間違えずに覚えてるよ」

「え、ほんまに!?恥ずかし!」

「むしろこの前のより鮮明に、」

「それは流石に傷付く」

「うん、冗談」

ケラケラと笑うと、仁王も少し呆れたような顔で微笑んだ。

そろそろ出会って10年が経とうとしている。付き合ってからは9年。よくもまあ飽き性で耐性のない俺らがこれだけ一緒にいれたなとしみじみ思う。
喧嘩も別れも経験して、それでもやっぱりお互いが良くて、結局元通りになるを何度か繰り返してきた。


左手に光るお互いの証が愛しい。





...




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