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暗殺チームを辞めたい3

どうしてリゾットは小切手を見せろと言ったのか。その理由も聞けないまま、リゾットを新しい家まで案内している。事の発端でもあるホルマジオやプロシュートは私同様、リゾットのスタンドにかかり下手に身動きが出来ない状態である。この三人は強制だが、一緒に同行していたはずのペッシだけは何も攻撃を受けてはおらず、一応私達とついてきている。このメンバーなら納得だが、本当に億を越す小切手を持っているのか興味本位でギアッチョやメローネまでついてきた。イルーゾォだけは他の任務に当たっているところだ。
移動は車を使っているが一台では足りず、2台で向かう羽目となった。プロシュートが運転席に座り、助手席をホルマジオ。そして後ろに私とリゾットが座っているが、先程から頗る程機嫌が悪いリゾット。ホルマジオに席を代わって欲しいと小声で頼んだが、嫌だの我慢しろなどと一点張り。彼もまたリゾットが怒っていることに、多少焦りを感じているのだ。だからって私ばかりが犠牲になるのはおかしいのでは??チームを脱退する気でいたことから、アジトから家までは車で1時間と遠い場所を選んでしまった。運転している方がマシだと思い、どうにかプロシュートに運転代わろうかと気を遣ったふりをしているとこの男、空気が読めなかった。

「運転は俺がやる。隣がいいっていうならホルマジオと代わってもらえ」
「プロシュートの隣がいいとは誰も言ってない...」
「違うのか?俺はてっきりそういう関係だから隣がいいのかと」
「だからいつまでそんな設定続けて..ヒィッ」

今、動いた。首元にある刃物がより一層浮き出てきた。刺激しないようにゆっくりと隣にいるリゾットを見ると、拳を振りかざそうとしている姿がわかる。あぁ、やばい。緊急事態だ。先程から機嫌が悪いと思っていたが、生ハムの様に薄っぺらい発言ばかりをする兄貴がこの状態でふざけ倒すから、きっと馬鹿にされたと怒って...!何かが起こると思い咄嗟に目をつぶると、ガシャンッと大きな音を立てた。自分自身が痛みを感じているわけではないのでそっと目をあけると、ミラーからプロシュートが加えていたタバコを思わず落としたところをタイミングよく見てしまう。そしてホルマジオも口を開けたまま、なんて間抜けズラをしているのだろうか。やけに涼しい、いい風が入ってくるようになったので、肝心な隣を見るとどうやら拳で車の窓を叩いたようだった。車の窓って、そんな簡単に割れるようなイメージはないというのに。

「....無駄口を叩くな」

もともと静かな車内だったが、更に物音一つ立てない雰囲気が続く。
時折思う。スタンドがなくたってこの人は力で相手を捩じ伏せれそうだと。この雰囲気といい、流石リーダーになるだけはある。本当に暗殺向きというか。運転には気をつけろだの、車間距離は保てだのと親のような発言が見受けられるが。これ以上怒らせないように何も言わない、ただ従った方が身の安全だと思ったのか誰一人口を開かなくなった。

それから数十分経ち、漸く新しい家に到着した。車から降り、いよいよ目的地にたどり着くと不安が過ぎる。リゾットは小切手をどうするつもりなんだろうか。まさか山分け?没収??時計を買うはずだったお金がまさかこんな大事になるとは。
後を追ってきたギアッチョ達も車を隣に駐車すると、メローネが真っ先に車の窓ガラスに気づく。

「机といい、窓といいリゾットは暴れん坊さんだなあ」
「ねえ、メローネ。なんで今日のリゾットはすぐに物へ当たるの」
「そりゃプロシュートがあんな態度だからじゃあないのか」
「もう自分の世界に入っちゃってるからね。お金があったら何か叶えたい夢でもあるのかな」
「どうだろうな」
「ちょっとビンタでもして目を覚ませてやってあげてよ」
「やるって決めたらやるタイプだから、よほどのことがないと無理だな」
「もう救いようないってかんじね」

幾億年ぶりくらいにメローネとまともな会話をしたような気がする。引いた目でギアッチョが私達を見てくるので、なんだやんのかと突っかかろうとしたところでリゾットが案内しろと私を急かした。引っ越したといえど、すぐに出て行くこともあり荷物は置いていない。どうせあんなに金があるのなら、ゆっくり準備してもいいだろうと考えていた。部屋に置いてあるのは鞄と簡単な荷物、そして例の小切手のみだ。年数が経っている賃貸を選んだので、エレベーターなんてものはなく、来たメンバーで階段を使いながら私の部屋を目指すこととなる。先頭を歩くのは勿論私だが、その真後ろを歩くリゾットに圧を感じて話しかけ辛いところだが、どうしても聞きたいことがあった。

「リゾット..」
「なんだ」
「小切手を見てどうするつもり?」
「話が本当かどうか確かめるつもりだ」
「そうですよね、ははは」

リゾットの身長が大きいので後ろが見えなかったが、部屋の前に着くと肝心なメンバーが誰もいなかった。みんなが入れるようにしておこうと鍵穴に鍵を挿す。その背後でリゾットが何か言いたげそうな雰囲気に気づくことが出来ないでいた。彼自身の表情は他人より気持ちを読み取り辛いこともあったのが原因でもある。

「お前は...」
「はい、どうぞ。何もないけど」
「プロシュートが好きなのか」
「へ?」

ドアを開けたままだというのに、一向に入ろうとしないリゾット。思わぬ発言に混乱してしまう。まさか、あの発言を本気で捉えてしまったのだろうか。

「結婚の為に辞めたいんだろ」
「え?ちょっとまって。どう見たってあれはッ!イデェッ!」

違うと否定しようとしたところで、リゾットの大きな体が倒れかかってくるのを避けられなかった。真後ろへと勢いよく倒れて背中を痛めてしまう。リゾットだけでも重たいというのに、この感覚は一人だけではない。死ぬ、苦しいと小さく呟いているうちに少しずつ重さが消えていった。

「兄貴酷いっすよ..いきなり蹴り飛ばすなんて..ッ!」
「歩くのがおせーからだろ。それより小切手はどこだ」
「ほんと現金な兄貴ィ...」

全く状況がわからなかったが、きっとペッシが転んでドミノ倒しになったのだろう。そりゃ男が自分の上に二人も乗れば苦しいわけだ。謝りながら手を貸してくれるリゾット。おい、1番謝るべきなのはもう金しか見えてねえ生ハムの方だぞ。ちくしょう、人んちを躊躇いなく突き進みやがって!!

後を追うように部屋に入ると、リゾットの視線が痛い。きっとあれは早く確認させろと視線で命令しているのだ。少し前にできた謎のたんこぶも正直なところ、まだ完治しているわけではないが、運悪く同じところに当たったのか再び痛み始めた。なんだかついていない、ただ私は腕時計が欲しかっただけなのに。
部屋中を探し回るプロシュートに続き、ホルマジオも隅から隅へと捜索を始める。残念、そんなこともあろうかと君たちには見つからないように隠しておいたんだ。使ってもいない冷蔵庫の裏に回り、小切手を取り出した。この状況でプロシュートやホルマジオに狙われたところで、リゾットのメタリカが先にとどめを刺すだろう。リゾットはリーダー故に頼りになる、その安心感があったおかげで誰も私に手を出したりすることもなかった。しかしその安心感のあるリーダーですら金額が大きい為に戸惑ってしまう。これはリーダーに限らず誰でもだ。この一枚こそが私の全てだからだ。いざリゾットの前に差し出したところで、簡単に手放せないのかお互いが引こうともしないので引っ張り合いになってしまうが、リゾットから離せと言われてしまうと咄嗟に体が反応してしまった。あぁ!あの小切手がリゾットの手元へ!本人は確認のためにとは言っていたが、もう誰のことも正直信用できない。それはホルマジオに10万を奪われ、プロシュートは結婚を装って全額巻き上げようとするわ、信じていたペッシはまんまとプロシュートの肩を持ってしまった。これだけ人に裏切られれば信用なんてできるものか!
その手に渡り、内容を確認するリゾット。信じられないギアッチョやメローネもその小切手を覗くと、二人は思わず小さく声が出てしまうところで咄嗟に口元を押さえた。プロシュート、ホルマジオ、私の喉元にはリゾットのスタンドがいつ発動されるかわからない。痛いのはごめんだ。だから下手に動きが取れない。張り詰めた空気が漂う中、リゾットは何も言わず、私の目の前に小切手を差し出した。呆気ないほど安易に。

「え、次はなにをすればいい?」
「なにを言っている。これで終わりだ。見せろと言っただけだ」
「ほ、本当に?」
「あぁ、だがチームを辞めるのは許さない」
「なんで?勿論今後姿を消してひっそりと暮らすつもりだよ!」
「どう過ごそうが自由だが、辞めるのは許さない」

表情を変えず、冷淡に話続けるリゾット。この世の終わりだと思った私は絶望感に体が固まってしまう。じゃあ一体何のためにここに来たのか、その理由すらわからないが聞く気にもならない。家も引っ越してしまって、アジトからは距離がある。ここから1時間もかけて通うだなんてとんでもない。あぁ、今は何も考えたくないと呆然としていた。

「ってことでその小切手は俺とプロシュートと名前で山分けだからな...っておい!プロシュート!」

いきなり背後から肩に重みがかかる。香水と煙草の混じったような香りからそれが誰のものかはわかっていたが、今はそれどころではなかった。既にリゾットの手元にあった小切手は、プロシュートが受け取ろうと手を伸ばし掴む。どうリゾットに許可を得られるのかを考え込んでいたので、プロシュートが耳元で何かを話していようが全く上の空である。

「ってことでよ、その小切手は俺が貰っておくぞ」
「なぜプロシュート、お前なんだ」
「何ってそりゃ夫婦なら当たり前だろ」
「...........」
「おい、プロシュート。このタイミングでその発言はヤバいってわかんねえのかよ」
「なんだ、ホルマジオ」
「いいから謝っとけって!俺たちまだスタンドかけられたまんまなんだぞ!」

プロシュートが掴んでいた小切手をリゾットも離さないまま。慌てたホルマジオが急いでプロシュートを引き離すが、それが非常に不味かったわけだ。びりびり、と嫌な音が響く。その音と共に「あ」とだけ声を何人かが漏らし、ハッとして彼らの手元を見ると、まさか、まさか!!!!そのまさか、小切手が2枚に敗れていた。綺麗に真ん中を引き裂いて。流石に空気が読めないプロシュートの表情も固まる。

「おい、これ銀行に相談してみねーと..小切手を再発行してくれるならいいけどよ。できねえとこもあるみたいだから、今すぐにでもッ!」

立ち尽くすプロシュートの肩を揺さぶり、どうにか解決策を練り出すホルマジオ。半分に破れたうちの一枚はプロシュート、そのもう一枚はリゾットの手元に残ったままである。突然の出来事に自分もパニックになり、リゾットはどうするのかと彼を黙視していると、次第に口角が上がっていくのを見逃さなかった。
そして次の瞬間、両手でその半分の小切手を何回か破り裂いた。クレイジーだ。マンマミーヤ、とはこういう時に使うのだろうがリゾットの思考にもうついていけないあまりに声も出ない。例の二人はその様子に叫び始めたが、頭を使いすぎたせいか何故かぐるぐると目が回り出すような感覚になった。あまりにもショックで、立っていられるのがやっとである。

「そもそも小切手なんてものがなければ、こんな事態にはならなかった。破れて丁度いい。欲は人を狂わせるからな」
「特に兄貴のことっスね」
「....」
「どうせこんな破れてしまったら再発行もできないだろう」
「くッ....!いくらなんでも鬼畜すぎるぜ、リゾット」
「いいか、プロシュートにホルマジオ。お前らも辞めるなんて言い出すなよ。どのみちこの世界に入ったら二度と抜けられない」

どうしてだろう、リゾットが閻魔のように見えてきた。どの道、リゾットはきっとこの世界に入ったならちゃんと責任を全うして欲しかったのか?だとしても、そんな簡単に破っていいような金額ではないというのに。そもそもなんでこうなってしまったのだろうか。私はただ、ただ...。

「私はただ腕時計が欲しかっただけなのに..」

報酬で買いに行こうとしただけだった。楽しみにしていた数ヶ月間。購入しようとお金を手にすれば勝手に使われ、追いかけられる羽目となり、逃げ回ってもなぜか暗殺チームを辞めれず、更には今目の前で小切手はただの紙屑と成り果てた。これは悪夢だ、悪い夢を見ていたのだ。ただやはり、時計だけはどうしても諦められず感情が表に出てきてしまう。我慢しても目にはどんどん涙が溜まっていき、ついには地面へ向かって落ちていく。こんなことで泣くだなんて情けないと思い、みんなの顔を見れずに俯いた。こんなはずじゃなかったのに。

「名前..」

声からしてペッシが駆け寄ってきてくれたようだ。背中に手を置き、摩るように慰めてくれようとしたが、今はそっとしてほしい。誰に対して怒りがあるとかではないのだ。ただ今頃手にあるはずの時計は何処にもない。その悲しみからそっとしておいて欲しかった自分は、咄嗟に部屋を飛び出してアテなどあるわけもないのに外へ走ってその姿を消した。

次回、最終回
←To Be Continued

20201129