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暗殺チームを辞めたい

※日本円で表記してます
※1話→番外編→2話→3話の順番で読むとわかりやすいです

それは本当に些細なきっかけだった。政府関係者を暗殺してほしいとの依頼が来たので相手のプライベートを狙い、私とプロシュートとホルマジオとペッシでカジノに出向いてた時の話だ。怪しまれない様に二手に分かれて、相手を狙うタイミングを伺っていた。しかしホルマジオといったら先程から任務というよりも、一点ばかりを見つめて視線を他に向けようとしない。何がしたいのかなんとなくだが察してしまった私は、ホルマジオから静かに離れようとした。しかし気付くのが遅かったか、まだ全く距離ができていないところで相手は私に声をかけた。

「おい、いくら持ってる」
「お財布忘れました」
「笑えねえ冗談だな。さっき水買ってたじゃあねえーか」
「いやホルマジオこそ冗談はやめて。まさかカジノやるつもり?」
「必ず返すから、今の所持金を全部貸してくれ」
「無理無理絶対無理。他の方に借りてください」

自分のお金じゃなくって私のお金を使おうとするホルマジオ。私は直様出入り口に向かって逃げようとすると、任務を遂行しに来たっていうのにホルマジオは私にスタンド攻撃を仕掛けたせいで、あっという間に自分の財布を取られてしまった。ちくしょう、今日の帰りにFENDIの時計でも買いに行こうとしていたのにッ!リゾットにチクれば絶対に返ってこないという可能性がないわけではないが、だからって今日の楽しみを取られたショックは大きいものだった。すぐに元の大きさに戻してくれたが、その頃には私の現金は既に別の人へと渡っていた。狂った様に泣き喚こうが、ホルマジオは知らんぷりをするんだろうな。消えていったお金を想い、一人悲しみに暮れる。10万円がこんな専用チップに変わってしまうなんて辛い。うぅ。

「どーせ負けるくせに。ひどいよ」
「おい泣くな。安心しろよ、勝ったらオメーの金なんだから倍で返してやるって」
「負けたら返ってこないのに?勝つ確率なんて少ないくせに」
「じゃあ選ばせてやるから好きな数字言えよ」
「29」
「ブラックの29で決まりだ」

お前の金だからという意味で好きな数字を聞かれたが、肉が食べたい気分だった適当に29と答えた。どうせ外れを引くから、人の金で余裕ぶった態度ができるんだと呆れる。こういう人って一瞬のスリルと金を手に入れた時の喜びに溺れて依存症になっていくんだろうなぁ。あーこわいこわいと思いながら、横目でホルマジオへ冷たい視線を送った。
このタイミングでどうやらプロシュート達が任務を終わらせ戻ってきたようで、私たちに気づいてこちらへ歩いてくることとなる。そして四人で結果を見守ることになった。

「何始めてんだよ」
「プロシュート、おめーなら何番に賭ける」
「3だ」
「じゃあ次の数字はそれにする。今はストレートアップ、29ブラックに10万かけた」
「どこに10万なんてあったんだよ」
「私のお金をスタンド使って盗んだの」
「返すって言ってんだろーが」
「絶対返ってこない。詐欺、恐喝です」
「カードが浸透するこのご時世で、10万も持ち歩くやつが悪いだろ」
「プロシュートはホルマジオの味方なの?酷くない?私何も悪いことしてないのに..ちょっとは肩をもってよ..」

メソメソと泣き出す私を唯一慰めてくれるのはペッシだけだった。可哀想だと思ったのか、今度ご飯でも食べに行こうと言ってくれたのでそれこそ肉でも食べに行きたい。はぁ、お肉が食べたい。肉肉肉。誰かさん達は人が泣いているというのに見向きもせず、結果に釘付けになっていた。
涙で滲んでよく見えないが、やることもないのでぼんやりとその結果を待っていた。絶対当たるわけがない。36分の1の確率で、その1を当ててしまうだなんてそんなラッキーな話あるわけない。利子をつけて請求しようと心に決めて、ホルマジオを睨む。くそくそくそ、お金の恨みは怖いんだぞ!!

「おい、まじかよ」

ウィールの上で回っていたボールの勢いが弱くなり、そろそろ落ちるだろうと息を飲む。流石に自分の10万円だと緊張するわけで、クルクル周り続けるボールを何周目か目で追うとまさかの黒の29に入るのだった。誰が当たると思っていたのだろうか。目の前の現実に真っ先に反応してしまったのは私だった。興奮しすぎて悲鳴に近い喜び方をした気がする。全然ルールなんてものは知らないが、当たったからには20万とか倍くらいにはなったのだろうか。ありえねえと言っているプロシュートに呆然とするホルマジオ。飛び跳ねて喜び、ホルマジオの肩を掴んで問いただした。

「ねえいくらになったの?!20万?!それとも40万とか?!?」
「馬鹿かオメーは」
「うるさいわね!さっさと教えなさいよ!」
「360万..」
「....は?」
「すげぇ..10万が36倍になったんだよ...!」
「...」

目の前に差し出された専用チップが一気に増える。先程見ていたチップとはまた明らかに色が違うのだ。流石にそこまで増えるとは想像をしていなかったので、目を丸くしてしまう。そんな私に構うことなく調子に乗ったホルマジオはその360万円を全て賭けると寝言を言い出したので、流石の私も止めに入った。ここまでくるとプロシュートも「名案だ」と楽しそうにホルマジオを唆す。ペッシに止めてとせがむが、マンモーニはその金額に興奮して耳が遠い様だ。あぁ、だめだ。みんな貯金というパワーワードを知らないんだな。

「元はと言えば私のお金じゃん!!もうやめてよホルマジオ!!」
「もっと倍にしてやっからよォ〜」
「おいおい、これがどんどん増えてみろよ。オメーは安月給な仕事辞められんだぜ。こんな美味しい話ねーだろうが」
「プロシュートとホルマジオには関係ないじゃない!」

そうやって止めに入ったところで、やめてくれるようならこんな状況にはならなかったと思う。次も当たるんじゃねーかとか言ってまた赤の3での一点賭けを狙った。男ってこういうとこアホだなって呆れる。でも今日って本当についてたんだろう。普通だったらありえないが10万円賭けていたというのに金額は次第に億を超えていた。全く予想が外れなかったということではないが、奇跡が奇跡を呼び、とんでもない金額まで膨れ上がっていた。流石に手の届かない金額に満足したのか、ここで終わると言ったホルマジオはやけにご機嫌だった。

「ねえ..億超えちゃったけど、どうする」
「こんだけあれば一生楽できんな。ってことで今日をもって暗殺チームから脱退するわ」
「ホルマジオ...そんな易々と...」
「俺もそうするがな」
「プロシュートまで...」
「兄貴が行くところについてくぜッ」
「ペッシは参加してないでしょ。そもそも私のお金なんだからね!」

そう言ってチップを現金化して貰おうと頼み、実際に膨大な額を手に入れることになったが、目の前の大金に易々と引き下がれるほどならこの男たち端から賭けなんてしていないだろう。小切手にしてもらう様に手続きを済ませて、満足そうにその場を去ろうとすると前へと進めなくなる。誰かが私のショルダーバッグを引っ張っているのだ。

「どちら様ですか」
「おい、他人の振りすんじゃあねえよ。俺が賭けたおかげだろうが。少しは寄越せよ。いや半分は俺のものだ」
「恐喝?ひったくり?何れにせよ警察呼びますから」
「警察なんて宛にならねーの知ってるくせに何言ってやがる」
「だって私に返すって言ったでしょ。そもそも私のお金だし」

ショルダーバッグが引っ張られ切れそうになるが、そんなことはどうでもよかった。こんなこともあろうかと鞄にしまうフリをして、実は胸に小切手を入れただなんてまさか予想してはいないだろう。そもそもこんな大金を持っていれば危機感を感じてしまうわけだ。特に綺麗な世界で生きていたわけではないので、尚更そういう意識は高いというか妙な言い方をすれば日課になってしまったのである。図が高い、離したまえと言ったところで離すわけなどないので、無視して前を進もうとすると今度はタバコの匂いが仄かにする。

「ホルマジオ、オメー図々しい野郎だな」
「そうだ、そうだ!もっと言ってくれィッ!」
「赤の3に賭けたのは俺だ。俺にも受け取る権利があるだろ」
「そうくるのかよ」

確かにプロシュートが赤の3という数字を口に出したことで、見事的中した。その事実を三人で目の当たりにしたので、それぞれ取り分を分けるのならば、プロシュートにも振り分けなければならなかった。しかし金というものは偉大であり、人間関係を崩すきっかけともなり得る。もう誰も信用はできない。

「何もねえのはありえねえだろうが」
「ありえるよ。それよりプロシュートはその顔があれば、簡単にどっかの金持ち令嬢捕まえれるでしょ。結婚して幸せになりなよ」
「あぁ、そうだな。目の前にいる金持ち捕まえるしかないよな」
「そうそう、カジノに戻れば金持ち沢山いるだろうね」
「ちげーよ、ここにいるじゃあねえか」
「ここには暗....貧乏チームしかいないよ」
「惚けるな、お前だろ」
「私好きでもない人と結婚する意味がわからないから、あなたとは絶対無理です。さようなら」
「分からなくていいぜ、さっさと小切手さえ寄越せば済む話だ」
「...愛より金だなんて白状...」

その場を去ろうとするが一向に退いてくれない。睨みつけたいが、自分より身長の高い人物には効果はないことを知っていた。先程泣いている私を放って自分たちはカジノに夢中だったというのに、随分都合のいい発言ばかりで呆れてしまう。その一人に鞄を掴まれ、もう一人からは行手を阻まれる状況をどう逃げ出すべきか。

「プロシュートじゃあなくてよぉ、別に俺でもいいんだぜ。なんたってカジノで大当たりするほど強運の持ち主なんだかな!」
「いやだから金目当てな男と結婚して幸せになれると思ってるところが勘違いしてるよ」
「罰当たりなやつだな」
「ホルマジオの強運ならもう一回カジノで当てる動画でも出したらどう?ほら、今そういう動画サイト流行ってるじゃない。そう、YouTuberっていう転職先似合うと思うんだ。そっちでお金増やせそうだからこれは諦めようね」
「名前、そもそもホルマジオなんてやめておけ。こいつはお前が言う通り金目当てだ。金がなくなったら捨てられるぞ」
「どの口が言う」
「ホルマジオもこいつのいう通り、新しい転職先の方が向いてるぞ。名前も金も諦めな、ホルマジオ」
「プロシュートもね」

金で人の心を動かせるとは怖い話だ。確かに暗殺を担当としているのに、割りに合わない給料を与えるこの組織がいけない。大半が薬で稼いでいるはずだというのに、どうしてこんな安月給なのか。だからこんなにも彼らの心が歪んでしまったというのだろうか。
この大金があれば一生遊んで暮らせる。だからこそプロシュートもホルマジオもここで諦めるわけがなかった。二人が言い合いになる中で、私の名前があがる。こんなモテ方したって嬉しくなんてない。彼らには金という概念しかなく、気持ちがないのだ。無理だ、絶対にどちらとも付き合う気なんてない。なにか、逃げ道はないのだろうか。あたりを見回してみるとふとペッシが喧嘩を止めようともたついている姿が目に入った。そうだ、いい事考えた。

「ここでスタンド使って老化させてやってもいいぜ」
「全く見向きもしなかったくせに、こう言う時だけ名前を欲しがってみっともねーだろ」
「なんとでも言え。名前は俺を選ぶはずだ」
「すげえ自信だな。断られてたくせによ」
「それはホルマジオ、オメーもだろ。そもそも人の金に手をつける奴なんてろくな男じゃねえぞ」
「なんだ、プロシュート。やるのか」
「やるもやらないも、あいつに答えを聞けばいいだろ!」

勝手に始めた喧嘩だというのに、一斉に自分へと視線が集まった。これ以上面倒事はごめんだ。今が逃げるチャンスだとタイミングを見計らって、咄嗟に自分の鞄をペッシの首にかける。ずっとこのタイミングを伺っていた。バレない様に、自然な別れは方をしようと。

「こんなに争うのならもういらない!お金、ペッシにあげる!!さよならみんな!!」
「えっ!!え?!?」

慌てるペッシに、二人の視線が向けられた。視界に自分が消えただろう隙を狙って死ぬ気でその場を逃げた。成功だ!!一生そこでその中身のない財布が入った鞄でも漁ってろ!

「ま、まじかよあいつ..あの大金をっ!!」
「ペッシ、オメーは参加してなかったからな。だから誰に渡すべきかわかるだろ」
「あ、兄貴っ俺、こんな大金っ!!」
「いいからその鞄..っておい、ホルマジオ。その手を離せ」
「俺もよ、一瞬躊躇っちまったけど普通におかしいだろ」
「何がだ」
「こんな美味しい話、あいつが簡単にやる様な性格じゃあねえだろ」
「「....」」

それを聞いたプロシュートがカバンの中身を漁るが、そこにあるのは空の財布と簡単な化粧品のみ。肝心な小切手が見当たらないのだ。それに気づいたプロシュートは明らかに鋭い目つきへと変わっていく。

「あ、おいっ!プロシュート!!待てよ!!」
「あいつ逃げる気だろうが地獄の果てまでおいかけてやる」
「..探すの手伝うぜ」
「俺たちの金だからな。おい、ペッシも手伝えよ」
「え、お、俺はいいよっ」
「金持ちになればミルクを飲もうがマンモーニと馬鹿にされることもなくなる。金で女や友達作れるぞ。それにもう怯えて任務をこなす必要もねえ。それでもペッシはあいつの肩をもつんだな」
「..よくわかんないけど兄貴、俺もやるよ!ついてくよ!」

プロシュートとホルマジオは血眼になりそうな勢いで、彼女を探すことになる。一方、何も知らないで呑気に逃げ回る名前は、暗殺チームをやめて一人幸せな生活を思い描く。そのお金を今後何に使おうか、いくら貯金しようかを考えては有頂天になっていた。

次回、彼女は暗殺チームを脱退できるのかッ!
←To Be Continued

20200927