×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
このチームに所属してから、私には想いを寄せる人がいる。それはミスタであり、長いこと片想いをしていた。気づけば恋に落ちていて、いつから好きだったかなんて覚えてはいなかった。
彼と話している時は気を使わないし、一緒にいて楽だ。そんな異性は大抵友達止まりだが、ミスタは相手を意識させる素振りが上手だった。何をするのにも距離が近いのだ。例を挙げるのなら書類に目を通していたりすると、後ろから顔を覗かせるまではいいのだが、何故か肩を抱き寄せるので自分の顔の真隣にミスタの顔がある。普段隣に立っている時だって肩が触れているくらい近いならまだ許せるが、私の肩に腕をよくのせて任務先の相手と話出したりする。更に話す時はやたら顔が近い。考えたらキリがないほどであり、ただ単にスキンシップが激しいタイプだと思っている。
ある日、何気なく自分のネイルに見惚れていたことがあった。綺麗な爪だと褒めてくれたのはいいが、イヤらしく私の手を間に自身の指を絡めてきたのだ。まるで恋人繋ぎのように。わざとかと言いたくなるようなことも、ミスタは平然とやってのける。きっと悪気はないのだ。だってミスタが一度も自分に対して、恋愛感情のようなものは見受けられない。だから、勝手に私が意識しているだけだとわかっていた。
同時に無意識なものほど怖いと思う。私と同じようなことをどこかの女にもしているわけだ。ミスタだって女に興味がないわけではない。むしろチーム内で他のメンバーに比べれば興味はある方なのだ。通りすがりの女性を見ているし、ナンパだってしに行く。その現場を目の当たりにしてきたからこそ焦りや嫉妬、不安が募って自己嫌悪に落ちるのはいつものことであった。
そんなミスタに想いを寄せ、未だあやふやな関係を保ち続けている。一度、諦めた方が良いと考えていたときだ。タイミングよくミスタが似合うと言って誕生日にピアスをくれたことがあった。パールのみがついたシンプルなデザインである。何よりミスタが自分のために選んでくれたということが嬉しかったので、それは頻繁につけお気に入りとなっていた。そのピアスのおかげで、どんなにミスタが他の女性の元にいこうが、まだ大丈夫だと自分を落ち着かせられる。変な話だが、精神安定剤のようなものだった。

任務から帰ってきた日のことだった。簡単な任務だったので、午前中には済んでしまった。このまま帰宅するわけにもいかず、ブチャラティに一先ず連絡をするといつものレストランにいるとのことで、私も彼らに合流することにした。レストランまでは距離が近く、歩きで行ける距離であった。電話をしてから5分ほどで到着してしまい、ドアを開けてブチャラティ達がどこにいるのか見渡すとすぐに見つけたが、聞き覚えのある声に足を止めてしまった。

「今来たやつ、いい女だったよな」
「ウェイトレスのことか?」
「ナランチャ、オメーどう思った」
「どうって、あんま顔見てねーや」
「見ろよッ!俺ちょっと連絡先でも聞いてくるわ」
「あーあ、始まった。すぐああやっていろんな女にちょっかい出す。相手が本気になったらかわいそうだって言ってんのに」

今の声はミスタとナランチャのものであった。一緒にいるはずのフーゴやブチャラティ、アバッキオはまた別の会話をしていた。あと少し歩けばみんなの元へ辿り着けるのだというのに、タイミング悪く今の会話を聞いてしまいショックで動けなくなってしまう。ミスタのさり気ないボディータッチ等に、私は少なからず彼を意識していた。もう戻れないところまで気持ちが進んでいることもわかっている。自分が何もアクションを起こせないことも。だから今の発言はミスタにとって、自分がそれすら意識されていないただのチームメイトだと知る。この感情を誰にも悟られたくない私は彼らに会うからには平然を保たなければならなかった。

「お!名前じゃあねえか。任務終わったのかよ」

先程狙っていた女性はどの人のことを指していたのだろうか。ミスタはその人を追いかける途中で、私を見つけた様であった。何もないフリをする私は果て普通に笑えているのだろうか。口元が引きつってないから心配だった。

「そう。今終わってブチャラティに連絡したら、ここにみんながいるって聞いたの」
「ブチャラティ達ならあっちにいるぜ」
「ミスタは?」
「俺?」
「ミスタは、どこにいくの」

その言葉に目を丸くしていた。まだ皆がいるテーブルにはついていないし、ミスタは丁度私がここに来ていたと思っている。だからこそ知らない顔して確信をついた。ミスタはそんな私の気を知らない。

「ちょっと用があってな」
「すぐ戻ってくる?」
「んー、暫くは戻らねえ」
「わかった」

恋人でもないのに、行かないでほしいだなんてことは言えない。この恋が実るとは到底思わないが、特別扱いしてほしいという願望はいつも消えない。そんなことを普段から繰り返し考えている。そして遠くなる背中をただ見つめ、多分あの女の人だろうか。スタイルも顔も文句なしの美女に声をかけて、楽しそうに会話をしていた。張り裂けそうな想いに先程より気が滅入ってしまう。恋愛って難しいなあ。私はあと何回この光景を見れば、気が済むのだろうか。嫌になって背を向けて、皆が集まっているテーブルを目指して歩いた。ナンパなんて失敗してしまえと祈りながら。

「お疲れ様、早かったな」
「ありがとう、ブチャラティ」

はじめにブチャラティと目があった。続いて他のみんなもお疲れと声をかけてくれる。ナランチャの両サイドが空いていたが、左側には飲みかけのコーヒーカップが置いてあるので、先程ミスタが座っていた席だろうと予測して右側へと座った。フーゴがランチはまだでしょうとメニューを渡してくれたが、生憎気が落ち込んでいるときに食欲が湧くわけなかった。皆が楽しそうに何かを語り合っているが、その会話も全然頭に入って来ない。ミスタがここへ戻ってきたらなんて言うのだろうか。連絡先をゲットした?デートの約束をした?それとももう今日は戻って来ないのかしら。どの結果になろうが、自分が傷つくのは目に見えていた。だから来て早々だが、こんなところにいたくはないのだ。

「ブチャラティ、今日は体調がすぐれないから帰ってもいい?」
「大丈夫なのか?あまり顔色が良くない、家まで送ろう」
「大丈夫、まだ一人で帰れそうだから」
「遠慮はするな、車を持ってくるからそこで待っていてくれ」
「ほ、ほんと大丈夫だからっ」

ブチャラティは心配して早速、駐車場に停めた車を取りに行ってしまった。余計な嘘をつくんじゃなかったと後悔して、ブチャラティの後を慌てて追う。しかしあと少しというところで出入り口まで直進に向かっていた私と近くのテーブルに座っていた誰かが立ち上がり、タイミング悪くぶつかってしまった。お互い勢いが良かったのか、反動で飛ばされてしまう。相手がこちらに向かってくる途中で、バキバキと何かを踏み潰すような音がした。

「大丈夫ですか」
「すみません、ぶつかってしまって」
「あなたのような綺麗な方に傷が付いていないか心配です」
「本当に大丈夫なんで..」

自分より少し年上だろうか。ギャングの世界とは無縁な優しそうな男性だった。転んだ私に優しく手を差し伸べてくれるので、有り難く自分の手を重ねて立ち上がる。乱れた髪を整えながら、ふと耳に違和感を感じた。左耳にピアスがない。自然に目がそれを探そうとすると、男性の足元に粉々になった何かにもしかしたらと不安が過ぎる。嫌だなあ、こういう勘は大抵当たっていたりするものだ。私の視線に気づいた男性が落ちた破片を手に取り、私の元へと持ってきてくれた。

「あなたのピアスですか?」
「えぇ..」
「弁償させてください」
「私が前を見ていなかっただけなので大丈夫です」
「そんな、大事なものなんでしょう」
「いえ!本当に結構なのでっ」
「では食事だけでも、」

男性が踏んでいたもの、それはミスタがくれたピアスであった。パールは形を残していたものの、耳に通すポストの部分が割れてしまっていた。自分がよく前を見なかったのが原因なので、非は私にある。本当に今日はついていない日だ。じんわりと視界が歪んでいき、泣きたい衝動に駆られる。そのピアスを見ているとまるで自分のようだと感じてしまう。知らない人の前で涙を流すのはみっともないので我慢して、帰ったら泣けばいい。だけどもう限界だ、はやくここから逃げ出さないと。

「すみません、私帰らないと」
「僕はいつもここでランチを食べに来ているので、欲しいピアスがあれば言ってください」

「何やってんだよ、迎えにきたぞ」

私の腕を掴み、後ろに引かれるので男性から少し距離ができてしまった。後ろを振り向かなくとも誰が話しているのかなんてわかる。最悪だ、よりによって本人の前でピアスをこんな粉々にしたところを見られるなんて。その後ろめたさから本人の顔を見ることが出来ずに、視線は地面を見つめるしかなかった。

「その女性のピアスを僕が壊してしまって、」
「どさくさに紛れて人の女にナンパしてんじゃあねーぞ」
「そ、そんなっ」
「ミスタ..?」

何が起こったのか全くわからない。全てはミスタが人の女だとかいう発言をしたからだ。今、この人はっきりとそう言った。聞き間違えなんかじゃないと断言できる。その事実を理解すると泣きたかったことなどすっかり忘れて顔が熱くなるばかり。
引っ張られてそのままレストランの外へ出ると、ブチャラティが用意してくれた車があった。しかしそこにブチャラティはいない。ミスタが助手席の隣の扉を開けて乱暴だが無理矢理押し込み、そして勝手に扉を閉じられた。ミスタはすぐに運転席側にまわって車に乗るとそのまま走らせてしまう。

「ブチャラティは..?」
「レストランに戻った」
「これからどこにいくの」
「オメーの家だよ、体調悪いんだろ。俺が送るって言ったんだ」
「..女の子ナンパしにいくって言ってたのに...」
「あ?どこでそれ聞いたんだよ。ってそれよりもなんでよりによってあんなやつに捕まってんだよ!さっさと無視して逃げればよかったのによぉ」
「だってピアスが...せっかくもらったのに」
「あんなもん大したもんじゃねえ。新しいの買えばいいだろ」

その言葉に傷つく自分がいた。新しいものに変えられるなら、こんなにずっと大切にしているはずがなかった。自分があげたものとすら忘れているのだろうか。私にとってはあんなに大事だっていうのに、今や片耳だけ残るこのピアスも両耳揃ってなければ使い物にはならない。所詮ミスタにとってピアスと私はそんなものでしかないのだと思い知るのだった。あぁ、やだな。わかっていたはずなのに、いざ現実味があるとこうも落ち込んでしまう。ミスタを吹っ切れたらきっと、この苦しみから解放されるだろうに。

「そうだね、新しいの買うよ。ミスタがくれたものだから嬉しかったんだけど...。ごめんね、私が鈍臭いから」
「..何自分で買う気になってんだよ、そんなもん買ってやる。だから泣きそうになんなよ」

誰のせいでこんな気持ちになったっていうんだと言いたかったが、今更もういうこともない。正直もう限界だったのだ。自分の家までつき、ドアを開けてくれるミスタにお礼を言う。そうだ、ブチャラティもせっかく気を遣って帰してくれたんだ。今日はゆっくり休もう。今すぐに出来るかどうかはわからないが、今日で区切りをつけてこれから切り替えられるように。

「ありがとうミスタ」
「おうよ、またピアスなら元気になってから買いに行こうぜ」
「それなら大丈夫」
「なんでだよ。泣くほど悲しかったんだろーが」
「もう諦めたからいいの。最悪、あのお兄さんに弁償して貰えばいいかなって」
「惚れたのか」
「だとしてもミスタには関係ない話でしょ」
「関係ある」
「ないよ」
「.....行くぞ」
「どこに...って、ちょっと!」

車から降りたばかりだというのにまた、助手席へ押し込まれてドアを閉められる。体調が悪くて家の前まできたというのに、帰れず再び車を走らせた。ミスタが何をしたいのか全く検討がつかない。なんだかんだ、こうやっていつもミスタに振り回されてるよなぁ、なんて。

「どこにいくの」
「ピアスを買いに行く」
「だからいいって!」
「いいか?覚えとけよ。ナンパするような奴なんてクソばっかだぞ」
「...それ自分に言ってるの?」
「..........と、とにかくだなあッ!買ってやるからあいつに金輪際関わるな」
「人の女だから?」
「...文句あんのかよ」
「ふふっ、変なの」

だからってそれは付き合うとかいうわけではないのだろう。都合がいい人。ミスタのいう通りナンパするやつなんてクソばっかりだわ。でもやっぱり私はミスタを好きでいることをやめられそうにない。だって、少しずつ前進している気がする。今まで自分の女だとか、男関係に何か言ってくるような仲ではなかったのに。だから自意識過剰かもしれないが嬉しくなって、頬が緩んでしまう。そんな姿を見せて悟られたくはなかったので、景色を見ているふりをしてミスタから表情を隠した。
どこのお店まで向かっているのかは知らないが、買うと言ってくれたからには高いピアスでも強請るしかない。今度は自分が焦らしていけるように頑張らなくっちゃ。

20200922
もこ様 一万hitリクエスト
遊び人のミスタに振り回される夢主、なんだかんだ幸せなお話