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席につき、教材を広げて授業を受ける準備を始めようとすると、承太郎が先程からずっと私を見ていることに気づいた。何か思っていることがあれば、話しかければいいのに。無言で見続けてくるものだから、私も無言で見返してやる。お互い口を動かすようなことはせず、見つめ合うだけの不思議な時間が流れた。そんな私たちを見てか、先に話題に出したのは花京院だった。

「どうしたんだい、その傷」
「口喧嘩してたらお互いヒートアップしちゃって、素手で殴り合ったの」
「一体、どこのどいつにやられたんだっていうんだい?」
「心配してくれてありがとう。こんな傷すぐ治るから大丈夫」
「血が滲んでその絆創膏、使い物にならないじゃあないか。これ良かったら使いなよ」
「花京院女子力高い..ありがとう」

鞄から絆創膏を取り出して私にくれた。花京院は高校の時から、私が何かしら忘れると物を貸してくれる。承太郎にはやる気あるのかってよく言われたけど、お菓子は持ってきたのに筆記用具忘れるだとかは日常茶飯事で(わざとではない)、そんな私を見かねていつも多めに筆記用具を持ってきたりしてくれた。今みたいに絆創膏を持っていたりするので、異次元の鞄だと個人的には思っている。そう、将来は何でも屋さんにでもなればいいのにってくらい頼もしいなんて言えないが。有り難く私は絆創膏を張り替えようとすれば血がどんどん垂れてくるので、見かねた花京院は更にティッシュまでくれる。ここまでしてもらうと自分の女子力のなさといったら情けないにも程があった。改善せずに今後も花京院に甘えればいいと考えるのが私らしいが。
傷をまじまじと見る事で、相手の刺さった爪が深かった事に気付いた。確かに向こうはネイルしていた事もあり、爪を伸ばしていた分深く皮膚へ刺さったわけだ。痛みに腹が立ってその爪をへし折ってやり、容赦ない私は相手の顔面もぶん殴ったので、気持ちは割とスッキリしている。花京院はどこの誰と喧嘩をしたかと聞いてきたが、同じ教室内で腫れた顔をしているやつなんて一人しかいない。見れば一発でわかるだろうが、敢えてはぐらかしてしまった。そんなことは誰も知らなくていいのだ。
口にはしなかったが、承太郎もこんな私をみてバカなやつだなってくらいにしか思わないはず。承太郎も私と花京院の会話を聞いていたかと思えば、すっかり視線は教授の方に向いていた。私は静かに講義を受けるフリをして、血が止まってきたところで絆創膏をこっそり張り替えた。お風呂入ったら滲みそうだな、これは。
ま、いつも通りこの講義が終われば帰るだけなのでいいやと考えていた。少し早めに教授が終わりを告げたので三人で帰るのかと思いきや、珍しく承太郎は先に帰ってろと言ってきたので久々に花京院と二人で帰ることとなった。一方ディオは教授と話していたのをチラリと目にしたが、視線が合い手を振られてしまう。私は愛想笑いをして、逃げるように教室を出たのだった。

「高校で喧嘩なんかしなかったじゃあないか」
「喧嘩売ってくる様な人はいなかったからね」
「それだけじゃない。最近少し様子がおかしくないか?」
「私が?」
「他に誰がいるんだい」

二人で外に出ると早速花京院が先程の話に触れてきた。花京院は私のここ最近の態度に違和感を感じていた様だった。思い返せばあの飲み会から喧嘩は売られ、ディオに振り回され、その取り巻きに嘘をつかれて講義に参加できなくなったりと今まで通りに行動ができていない。そのせいで帰りに寄り道とか出来ずに課題に力を入れて、何とか今学期の成績を落とさない様に頑張っている。
でもまだ確実にディオの事が理解できた訳でもない。何の手がかりもないままディオに振り回されてると無闇に相談したところで、火の粉が花京院にも飛び移ったら罪悪感で死んでしまいそう。そう思うといつもは何でも話せたのに、そうもいかなくなってしまった様だった。まさにディオの呪いにかかってしまった感じである。

「うーん、そこまで深く悩んでるって訳じゃあないから大丈夫。ただもう少し様子を見て、話せる様になったら聞いてほしい」
「君がそういうなら僕はいつでも話を聞くよ。困ったら相談してくれ、力になる」
「ありがとう、相変わらず頼りになるよね」
「君は僕の数少ない友人だからね」

優しく接してくれる花京院に心が温かくなる。自分は友達が少ないと言っているが、確かに花京院は昔から友達を作らなかった。花京院と私は昔、何回か話したことがあるただのクラスメイトだったが、何でも心を許し相談できるようになったのは、彼らが自分を拒まず受け入れてくれたからだ。生憎この性格なので昔のことはあまり覚えてはいないが、彼らなら信頼できると思ったのは確かだった。対してなぜ皆はディオなんかを好むのだろう。私だったら花京院みたいな人といた方が幸せになれるって断言できる。結局上部や第一印象が全てなのかも。

「ところで承太郎って何かあったのかな。ずっと三人で帰ってのに」
「さあね。承太郎に何かやり残した事があったんじゃあないか?」
「まさか、承太郎も喧嘩売られたとか?」
「かもしれないな」
「え、冗談でしょ?」
「君って本当に面白い奴だな」
「なにそれ、答えになってない」
「それよりこの前言ってたクレープ、食べに行かないか?」
「え!賛成!!いくいく〜花京院の奢りねー!」

20200507