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- ナノ -
※初期の頃 ディオが疑われてないあたりのお話

「明日はお昼ご飯買ってこなくてもいいよ」と名前が言っていた。別に誰かの誕生日が近いわけでもないし大学付近の店に行く様な雰囲気でもないので、なぜそんなことを言うのかわからなかった。同じことを俺だけではなく花京院にも言うあたりは、特に悪巧みしているとかそういうことではなさそうだ。大体あいつはいつも俺には数々の悪戯を考えるが、花京院には絶対しない。意地の悪い俺とは違い、花京院は面倒見がよく、あいつを甘やかすばかりだったというのもあるが。
講義中も何回か名前が消えるようなことがあったが、講義が終わったと同時に準備するからと急いで出て次の講義室へと一足先に向かった。何をするかなんて全く検討がつかないが、突き止めようとする気もない。そうして花京院と指定された講義室へと向かえば、何やら不思議な光景があった。

「あ、きたきた。丁度準備終わったとこ!さあ座って!」

大きな講義室ではあったが、後ろの方でこちらに向かって手を振るあいつの元へと向かうと周りには何故か流しそうめん機があった。周りにはトマトやネギ、ニンジンやオクラなどの具が置かれている。きっとさっきの講義中で茹でたり型取ったりしていたのだろう。その光景に隣にいる花京院も思わず笑っている。

「...なんだこれは」
「チーズフォンデュだと講義室がチーズ臭くなりそうだったから、流しそうめんにしてみました!ほらみんな食べて!」
「おいしそうだね」
「でしょー!承太郎も早く座って食べないと無くなっちゃうよ〜」

何しに大学へ来たのだろうか。今日ずっと嬉しそうに過ごしていたのは、この為だったのかと思うと漸くわかる。座らない俺に痺れを切らしたのか腕を掴んで無理矢理座らせようとするので、仕方なく座ると目の前につゆと箸が置かれた。そして当の本人といえば、ニンジンを星形の形に切ったと子供のように無邪気に笑ってアピールしてくる。多分、俺のアザを知っていて言ってきてるのだろうが。それほど大きくはないが、機械の中で回るそうめんを取って食べてみるが意外にも美味かった。

「言ってくれれば手伝ったのに」
「いいよ、花京院!私がやりたくて付き合わせてるし」
「ありがとう、とっても美味しいよ。なぁ、承太郎」
「あぁ」
「ただ茹でただけだからなんか恥ずかしいなあ..はは」
「そんなことねえだろ。麺つゆ薄めただけとは思えねえ味だし手間はかかってる」
「じょ、承太郎が褒めてくれるなんて.....なんか怖い。よかった、ワサビ大量につゆの中にいれなくて...」
「.......」

素直に喜べばいいものの、俺がああいえばこう返す。作った本人は時間を見てはまだ茹でてるからと言って残りのそうめんを取りに行った。
昔からそうだ。いつも普通そうに見えて予想外なことをする。思いつきで流しそうめんを学校に持ち出すのは今に始まったことではなかった。高校の時なんて屋上にサイダーとフルーツを持ってきてフルーツポンチが作りたいと抜かしやがった。メントスを何故か何個も入れ、あたりはサイダーまみれになるという最悪な展開だったが...。くだらねえからやめろと言いたいが、何より花京院が楽しむ姿を見ていれば悪くねえなとも思う。昔、なんとなくだが自分はダチがいなかったから青春というものを感じられるあいつが新鮮だと言っていたような気がする。あんま覚えてねえが。

「あ、戻ってきた..ってあれ」

花京院が思わず箸を止めた。その一言に反応して講義室の出入り口を見るとなぜかディオと一緒にいる。目を離すとすぐこれだ。なぜ最近あいつばかりといるようになったのか知らないが、そうめんを指差すディオにまさかなと嫌な予感が過ぎる。
そして何故か自分達の席にディオも来たのだった。

「ディオ、流しそうめんしたことないんだって。っていうか見たこともないらしい」

捨て犬でも拾ってきたように連れてきたので驚いた。そりゃイギリスで流しそうめんやってただなんて言えば大抵のやつは日本に興味あるか身近に日本人がいたんだろうなと思う。きっとこいつのことだ、興味を示したディオを無視できずどうかと誘ったんだろう。目の前に座られ、目が合うと邪魔してすまないと言う。別に誰が来ようがどうでもいい話だ。

「本当は竹でやるんだけど、流石に持ってくるわけにもいかないから、小さいもので申し訳ないけど..」
「いや、何でも小型化してしまうなんて流石テクノロジーの国だと感動するよ。こういうところが面白い国だな」
「いやいやイギリスの方が最先端いってるイメージあるけど..」
「物によってはな。でも僕らは古い物に対して価値や魅力を感じるから、新しいものを好まなかったりするんだ」
「へー。私なんでも新しいのにしちゃう」
「それは日本人が潔癖症というのもあると思うがな」

まじまじとみるディオに箸を渡し実際に体験してもらおうとするが、初めてのそれに苦戦を強いられるディオ。面倒見が良すぎる花京院も思わずアドバイスをしてしまうほどで、俺はただその様子を見ているだけだった。自分の性格上、誰かと気軽に接したりすることはしない。だからディオとはあまり話したこともないが、花京院とあいつが楽しそうにする姿を見ているとこれもありなのかと思えてくるのだった。自分が友人関係をどうこう突っ込める身分ではないが、その光景に卒業あたりには意外にも四人で関わっているかもしれないとふとそんなことを考えてしまった。

「お!ディオとってもいいよ!そんなかんじ!!やったーーッ!!つかめたねー!!上手上手!」
「おい、子供扱いしすぎだろ」
「だってなんだか目が離せなくってつい...」
「そんなに箸が下手くそなやつじゃあねえだろ。初めだからタイミングがわかんなかっただけで」

自分がされたら馬鹿にされていると誰しもが考えるはずなのに、気にせず食べ続けるディオも凄みがあるというか。まあ気にしてないならいいやとまた黙る。

「おいしいな、これ」
「口にあってよかった!!」
「お礼に今度ご馳走するよ」
「え!いいよ!気にしないで!!」

もしかして、いやまさかだろうか。ディオは最近関わったばかりだというのに今なんて言った。男が大抵女を飯に誘うときは大抵下心があるもんだ。.....やっぱり撤回だ。こいつとは仲良くなれねえ。どうやってディオのやろうと離そうか。気づいたら空になっていたそうめん機が目に入る。割り箸に紙コップなど捨てられるものばかりで、洗うものといえばこれしかない。それに次の講義までの時間ももう少ない。立ち上がってコードを抜き、機械を手に取った。

「早くしねえと次の講義始まる。さっさと片付けるぞ」
「あ、ちょ!待って!私やっとくから置いといてくれればっ...だからまってって承太郎!」

別に誰と関わろうが知ったこっちゃねーが、なんだかディオだけはあいつに近づけてはいけないと、そんな気がした。

20201004