×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
今学期も残すところあと少し。休み前にテストがあることに焦りを感じている。いつも理解出来なかったところは、承太郎や花京院に教えてもらっていた。とはいえ花京院は学科が違うし、承太郎は二週間も講義に出席していないわけだ。今回ばかりは自力で頑張るしかないと心に決めるつもりだった。予定ではそうだ。なのに、ここ最近の出来事が私を狂わせる。ディオが発した言葉の意味を理解出来ないまま、更には承太郎に告白されるという進展に至ったのだが、この二つに共通することといえば自分の行動が引き金になってしまったということ。こんな超がつくほどバカな自分が嫌いだ。考える度に羞恥心で今すぐ窓から飛び降りて、生まれ変わってしまいたいと思うほど後悔している。
そもそもこんなことを考えているだけで体力を使ってしまいそうだった。おかげで何一つ集中できずにいるのだ、この大事なテスト前に。

「名前」

目の前には花京院がいる。その声に気づき辺りを見回すと、辺りの騒がしさからいつのまにか講義が終わっていた様だった。考え込みすぎたのか、皆が講義室から出ていったことすらわからなかった。気づけばお昼の時間だったので、花京院はわざわざ私のところまで来てくれたのだろう。いつもは承太郎と三人でお昼を食べていたので、入院してからはこうやって二人になる時間が増えていった。二週間近く経てばその状態にも自然に慣れていってしまう。多少は寂しいと感じるが、今日はそれどころではない。

「だめ..今回単位取れる気がしない..」
「そんなに難しいっていうのかい?」
「全然頭に入らなくて困ってるの」
「どこがわからないんだ」
「全部」
「お昼を食べてから、時間が許す限りは僕も手伝うよ」
「花京院様...クレープ奢らせてくださいッ!!」

違う学科だというのに、こうも毎度面倒見がいい。私はきっとこの先も花京院なしでは生きていけないだろうと勝手に確信した。花京院も私の隣に座り、コンビニでお昼を買ってきたのか広げる。鞄からお弁当を机に置き、このあと何から聞こうか考えていた。そんな私の気持ちもお構いなしに花京院は口を開く。

「それで、承太郎とは何があったんだ」
「ぶっ!!!..ごめん..」

口に入れたばかりのご飯が飛んでいく。自分の食べ方の汚さに反省しつつも、唐突にその話題へふれてくることに驚いた。そういえば昨日、聞かせてくれなんて言ってたっけ。花京院といえば楽しそうに笑いながら、それでと続きを迫ってくる。女子の恋話みたいだ。

「なにもない..」
「勉強を手伝ってやるのに、それは酷いんじゃあないか」
「う..」

卑怯だ。私の弱みに付け込んで真意に迫ろうとするだなんて。単位が取れなければこの先は真っ暗であり、私がどちらを選択するかわかっていての台詞だ。嘘だよごめんと言われても、それが本当に謝っているようには聞こえなかった。普段優しい人を敵に回すと痛い目に合うなんて、まさに花京院のことじゃないかと思う。

「...われた」
「ん?」
「すきっていわれた」
「それで?」
「それだけ」
「名前はどう思っているんだい?」
「わからない」

恋愛ではなければ、承太郎のことは好きだ。言葉にしないが根は優しくいい奴だと知っている。自分に合っていたからこそ、こうやって仲良くできていたのだ。しかし恋愛となればわからなくなるので、だからずっと解決出来ずに一人焦っていた。深く考えれば考えるほど、この胸の奥のモヤモヤした気持ちが一体何なのかもわからない。

「試しに付き合ってみたらいいじゃあないか」
「でもそれで別れて気まずくなったら?!」
「君が負い目を感じたりして離れていかなければ、別れてからもずっと仲良くやっていけると思う」
「そんなの無理」
「僕はそうは思わない」
「花京院は仮にだけど、私たちが付き合ったらどう思う?」
「もちろん、嬉しいに決まってる。親友が幸せになってそれ以外何を思うんだっていうんだい?」



花京院は真剣に私を見ていた。その眼差しになんの迷いもないようだ。私はどこかで花京院のことが心配だった。いやそれはきっと自分のエゴだ。いつまでも三人仲良くしていたいと願っているのだ。あぁ、こんなにも堂々といわれては自分の性格が歪んでいるのだと情けなく感じる。花京院は本当にいい奴だ。友達の幸せを心から喜んでいる。私は花京院と承太郎が付き合っていると誤解した時は、寂しかったというのに。
さっさと食べて勉強でも教えてもらおう。このまま考えていたらいつまでも落ち込んでいそうで嫌だった。私は残ったご飯を急いで食べた。女子力がないのは今に始まった話ではない。それよりも単位が大事だ。お弁当を片付けて、教材を広げる。
教えてもらっているからには、勉強以外のことは考えたくなかった。昼休みが終わるまであと数十分はある。それまでに出来る範囲で教えてもらいたいと気持ちを切り替えた。花京院は先生になれるんじゃないかというくらい教え方が丁寧でわかりやすい。高校を無事に卒業でき、大学も留年せずにいられるのは花京院がいたおかげだと何度思ったことか。集中するといつも時間はあっという間だ。気づけば、次の講義が始まるまであと5分。移動も兼ねてそろそろ部屋を出なければいけなかった。講義室を出て次の場所へ向かうのだが、途中まで一緒に歩くことになる。

「ありがとう花京院!」
「また何かあったらなんなりと言ってよ」
「じゃあ全部教えて」
「多少は教科書を読んでおいてくれ」

そう言われて読んだとしても、絶対に理解はできない自信だけはあった。そんな私の性格をわかっているはずだろうと本人の様子を伺うと、花京院の視線は私ではなく遠くを見たまま動かないでいた。どこを見ているのだろうかとつられてその先を探すと、見覚えのある姿が向こうから歩いてくる。

「彼とはどうなんだ」
「彼ってまさかディオのこと?」
「そうだ。そのディオと最近一緒にいるのか?」
「なんで急にそんなこと..」
「いや、気になったというか心配というか」

何かあったなんてもんじゃない。花京院が何を考えているかわからないが、その質問に答えられずにいた。そんな私を見て心配そうに見つめてくるので、こういうことはもう既に彼に見透かされているんだろうなと思ってしまう。

「ねえ花京院。前に困っていたら相談してって言ってくれたよね」
「あぁ」
「承太郎はディオには気を付けろって何回か言われたことがあるんだけど、花京院はどう思う?」
「ディオのことはよく知らないが、僕はあいつがサイコの様にみえる」
「...」
「ディオのことでずっと悩んでいたってことだろ。話してくれないか」

ほら、やはりそうだ。花京院は私が何に悩んでいるか、きっと随分と前からわかっていた。あれから月日が経ってしまったが、確信できることは何もないまま。花京院に話して欲しいと言われ、断る理由もなかった。

「前行った飲み会の時に、承太郎に飲まされて体冷やすために外へ行ったんだけど、その時ディオは外で電話してた。ディオから見て死角になるようなところにいたんだけど、ほらディオって皆から好かれてる性格のいい奴っていうイメージあったじゃない」
「そうだな」
「私、みんなの事を小汚いやつの集まりっていうセリフ聞いちゃってさ。...バレてないはずだったんだけど、次の日から毎日ディオが近づいてくるようになったから変だなって..」
「確かに急に距離を近づけてくるようになったな。てっきりただ仲良くなっただけかと僕も思っていた」
「でもおかしいの。その日を境に奇妙なことがどんどん起きていって、初めはディオとかかわりたくないって考えていたの」
「...」
「でも...」
「...でも?」
「...ディオ、本当は家庭事情が原因でああやって生きていくことしか知らないのかもしれない」

花京院は今の会話を聞いて、どう受け取ったのだろうか。人それぞれの視野によっては、様々な受け取り方がある。自分が花京院の立場ならこんな私はとっくに見捨てられていいほど優柔不断な性格であった。彼に迷惑かけてばかりできっと失望させてしまったかもしれない。いろんな不安が自身を取り巻くなかで、対してその時の花京院といえば怒っている感じではないがどこか哀れんでいる、そんなようだった。

「だから突き放せない、そういうことなんだろ」
「..そう、なのかも」
「どうしてそんなに悩むまで黙っていたんだい」
「なんの確信もないから無闇に巻き込むわけにはいかなくって」
「このタイミングで話すだなんて、なにかきっかけでもあったのか」
「きっかけっていうか..この前、何か隠していることがあるのかって聞いたの。ディオは私が一番本質を見抜いているくせにって」
「...本質?」
「私もわからない」

随分と重たくなった雰囲気に嫌気がさしてきた。本当はいつものように明るい話だけをしていたいのに。その後ろめたさかろくに花京院と目を合わす事ができない。寧ろ、どこを見ていいかわからないのでひたすらつまらない地面ばかり見つめていた。そしてまた頭上で花京院の声が聞こえる。

「僕も正直なところ、ディオと距離を取った方がいいと思う。名前、君が言う通りこんなに事件が起こることは今までになかった。だからこそ何か嫌な予感がするんだ。その予感が外れてくれればいいが、胸騒ぎがする」
「花京院..」
「僕はそれでも君の力になりたい。これからは気を使わずにありのまま話して欲しいんだ」

勿論そうするつもりだ。私は花京院を誰よりも信頼している。あまり自分の周りで亀裂が入るのはいい気がしないが、そうならない為にはどうすればいいのか考えたい。少しは前に進めたように思えたが、自分の中で花京院の言葉に引っかかるものがあった。最初はディオと私がどこかへいく姿を悪く思っていなかったはずだ。だが、先程花京院の口からサイコだという単語が出てくるなんて思わなかった。その不信感はどこからきたのだろう、その違和感が自分の中で消えてはくれない。

「ねえ。花京院はどうしてディオをサイコだと思うの」
「承太郎が怪我を負うなんておかしい話だろ。だから犯人の経緯を探っていたら数日前にディオと接触があったようなんだ」
「...」
「真相はどうかはわからないままだが、ディオの手の内だとすれば犯罪レベルだろ。もし事実だとすれば僕はあいつを許さない。ディオが気に入らないだとか個人的な私怨で言っているんじゃあない。前にも言ったが名前は僕の大事な友人だ。承太郎もその一人で、例えば誰かが君たちを傷つけたりでもすれば、黙ってなんかいられないよ。....僕がわかる範囲で話せるのはそれくらいだがな」

酷く冷たい眼差しをしていた。あまりこういった表情を見たことがない。その姿や言葉に圧倒されてしまい、その後何も言い返すことは出来なかった。そして自分の講義室が近くになっていき、花京院に別れを告げる。悪気はなかっただろうが、こんなことを言われてしまっては次の講義も真剣に取り組める気がしない。花京院が心配して本当のことを言ってくれたのはわかっている。私の意見を尊重してくれたこともだ。だからこそ真剣に今後どう向き合っていかないといけないのか考えないといけない。
席につき、呆然と黒板を見つめた。もうすぐで講義が始まると言うのに、考え事は止まらない。あぁ、いつものようにまたディオが何を考えているのか、理解しようと必死で頭を働かす。

正直承太郎が怪我をして花京院が追い詰められていた時に、自分の中でその疑いが浮上した。それはディオと関わりだしてから積み重なる不幸に、不信感があったからだ。承太郎は以前から関わるなと私に言う。しかし関わって見れば見るほど彼の過去が今の彼を作り上げてしまったのかと思うと悲しい話なのだ。信じたい気持ちは山々で、信頼は立っているのがやっとなくらいである。なのに、ほら。私の隣にまた座ってくる。既に罠にかかっているように。

「なぁ名前。テストが終わったら、どこかへいかないか」

もし全てディオがやったとすれば、この人は一体どういう気持ちで行動を起こしていたのだろうか。私はこのままディオと関わるのであれば、更に確信に迫らないといけない。以前のようにではなく、もっとはっきり事実を押し付けて。そうでもしないと私は決められない。

20200812