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承太郎がもう少しで退院する。あれからお見舞いに行くことはなかったが、流石に全くいかないと言うのは失礼な話だった。花京院と一緒に行くのは気を使うし、適当なタイミングで一人お見舞いに行けばいいと思い悩む。
人生って一生人間関係がテーマだと思う。そもそも人と関わらなければ大抵悩みなんてないのだ。ディオに関しては今日も変わらず普通にしつこく接してくるし、花京院と一緒に帰れば病院にいかなければならない。なにから解決して行こうかと考えるも、そもそも全て自分以外が行動を起こしたことであってなぜ自分がこうも考えるのかわからない。
そんなことを考えている間に、大学が終わり病院へついてしまった。しかも目の前には承太郎の部屋のドアだ。これさえ開けてしまえば、承太郎がいる。いや何をためらっているのだろう。いつも通りに接していればいいのだ。いつも通り。いつも通りに。いつも通りに。そう考えていると近くの看護師さんが私のことをチラチラと見ているのがわかった。小声で妹さんかなとかいう会話が聞こえるのはわざとだろうか。承太郎と私?似てねーわ。これで私が彼女だと言ったらあの人たち倒れるくらいショックを受けるのかな。そんなこと言ったら承太郎にキレられそうだ。
そしてドアにそっと手をかけて、勢いよく入っていく。


「承太郎ーお見舞いきたよー!」
「静かに入ってこい」
「..ごめんなさい」


そうだった、個室とはいえ承太郎は騒がしいタイプは苦手なんだった。反省しながら勿論扉を静かに閉める。適当に荷物を置いて、承太郎の隣にあった椅子へと腰をかけた。なんだ、この雰囲気は。承太郎は私を目線を逸らさず、ずっと見つめてくるので少し気まずさを感じてしまうのだ。この日ばかりは承太郎の視線がとても痛い。穴が開きそうなくらいに。


「花京院とどうして一緒にこない?」
「忙しくて..」
「24時間暇な奴がなに言ってやがる」
「ひど、、私のことなんだと思ってるの」
「猪」
「人間になりたい..」


やはり唐突に私の痛いところをついてきた。花京院の名前を出されて動揺し更に言い訳をしてしまうが、相変わらず酷い扱いをするもんだなと心の中で泣く。承太郎が入院して少し前までは花京院と一緒にお見舞いに来ていたので、不思議がられてもおかしくないのだ。あまり触れたくない話題であったから、少しでも話を逸らしたいと思う。


「傷はどう?」
「走れる」
「傷口が開くからやめなよ。絶対自分のこと無敵だと思ってるでしょ」
「..」
「確信犯じゃん。無言で笑わず何か言ってよね」


この小馬鹿にしたような顔でこっちを見るのはやめてほしい。立て続けにカチンとくるような刺々しい言葉が多い。でも承太郎のペースに乗せられて、すっかり先程までいつも通りに振る舞おうと思っていた自分が何処かへ飛んでいってしまったようだ。油断していた、その言葉がしっくりくるだろう。この時まで悩んでいたことは、これから悩むことよりも幾分と軽いことだったと知ることとなる。


「何か誤解してるだろ」
「え、何が」
「ここ最近避けているだろ」
「空気を読んでるっていうか」
「花京院が気にしてる」
「私だって何事もなかったように接してるつもり..。そもそも二人が私にちゃんと話してくれなかったから気まずくなっただけで」
「何を聞きたいんだ」
「え?!それ私に聞く?!ありえないんですけど!」


思わず声をあげてしまった。察しろよ的な雰囲気を出したのはそっちだっていうくせに。つまり、この状況の流れ的に花京院のメンタルケアをしろと。そういう関係である相手の彼が心配なんだろう。気を使う私の立場にだってなってよなんていえたら良いのになんていう自分の全てが嫌になってぐるぐると混乱していく。なんだか承太郎の顔が見れなくなって俯いてしまうのだった。


「喧嘩の件か?」
「違う」
「他に話すことなんかねえな」
「だって、承太郎..花京院と付き合ってるんでしょ?いつからか知らないけど、それならすぐにでも言って欲しかったっていうか。自分だけ何も知らず二人の邪魔していたって思うと馬鹿みたいだなって」
「.....どこでそう思ったんだ」
「承太郎、俺の気持ちどーのって言ってたじゃない」
「.....」
「二人のことはこれからも応援してる。私のことなんて気にせず幸せになってほしい」


これが本心だ。二人が仲良くやってくれればいいと本当に思っている。心に残る違和感はきっと寂しいからだ。その気持ちを堪えるように膝に置いていた自分の手を力強く握りしめた。承太郎がどんな表情をしているかなんて知らないが、どうせこの人がどんな顔をしているかとか気にしたところでなんの得もない。


「そうじゃあねえ」
「え、ごめん。そういう言葉いらなかったよね..」
「だからそういう意味じゃあねえ」
「..」
「これ以上勘違いしないように言っておく。俺と花京院は、名前が考えているような関係じゃあねえよ」
「今更嘘なんかつかなくても..俺の気持ちがどーのって」
「自分の事だと考えたことはねーのか」


自分ってどっちのこと。なんて言える訳もなく、承太郎の真剣な眼差しに息をのむ。この展開はなんだろう、もしかしてだなんて思う自分がいる。大人になるにつれてなんとなく展開というものはだいたいが予想できてしまう。


「好きだ」


じんわりと自分の中で広がっていき、顔が赤くなるように感じた。心臓がバクバクとしている。恥ずかしい、嬉しい。いろんな気持ちが混じってよくわからない。てっきり花京院の事が好きだと思っていた私には実感があまりわかないが、嫌な気にはならないのは確かな事だった。


「私のこと、からかってる?」
「ふざけてんのか」
「だって高校のときからずっと仲良くやってたから、その、実感がなくて」
「わかってる」
「私、いいとこないよ。ガサツだし男みたいだし」
「それは諦めろってことか?」
「あ、その、」
「迷うことなのか?」
「わからないの」
「...」
「嬉しいんだけど、実感がないっていうかそういうふうに考えたことなかったから」


今の言葉が全てだ。確かに嬉しいっていう気持ちがあった。この離れた数週間で寂しいと感じるのは、友達としてだったのか?それすら考えればわからなくなる。


「花京院には普通に接してやれ」
「普通ってなに」
「てめーのそのとんだ勘違いで避けられてると傷ついていた」
「それはもちろん謝るけど承太郎にだって非はあるんだから!」
「勝手に話を広げただけだろーが」
「おっしゃる通りですう..」


すっかり話し込んでいたとは言え、花京院には本当に申し訳ないことをしたと思うとはやく謝りに行きたかった。承太郎の一押しもあったおかげで、私は今度は大学で会うことを約束して病室を出た。慌てて病院の外へと向かい、早速だが花京院に電話をする。花京院は私の勘違いした話を聞いて、なんて言うだろうか。ふざけんなってブチギレられたらもう生きていける自信がないくらい病んでしまいそうだ。いや、花京院がそんなふうに振る舞う性格ではないがショックだからしばらくほっといてだなんて言われたら、あぁ携帯を持つ手が震えて花京院へと電話するのが少し遅くなってしまう。大きく深呼吸をして覚悟を決める。そうして花京院に電話をかけることにした。花京院はいつも携帯をいじっているようなタイプではないので一回で出てくれるか心配だったが、この日は珍しく電話に出るのが早かったのだった。


「もしもし、花京院..?今ちょっといい?」
「どうしたんだ?何かあったのかい?」
「ううん、私ね今承太郎に会ってきたんだけど、花京院と承太郎が付き合ってると思って避けてたんだ。ごめんね」
「いきなり急だな...どうしてそう思ったんだ?」
「承太郎が俺の気持ちに気づいたどーのって言ってたから、てっきり花京院の事だと思ってて。でももう誤解が解けたから!」
「なぜそうなってしまったのかはわからないけど、誤解が解けたってことは何か進展があったってことなのかい?」


進展があった、とは。思い返してみると花京院に謝ることばかり考えてすっかり肝心なことから逸れていた。そうだった、私承太郎に、す、すき、すきだって、言われたんだっけ。みるみる顔が熱くなっていくのを感じる。花京院に何か返事をしないとと焦るも、いろんな感情が混じってパニックになりかける。


「進展なんてないでござる!」
「わかりやすいなあ、本当に。その様子じゃあ承太郎もついになにか起こしたんだね」
「...花京院は知ってたの?」
「さあね」
「いつから?」
「いつだったかな」
「ねえそれ前も二人で帰った時に同じ返し方してたよね」
「よく覚えてるじゃあないか」


笑い声が電話越しで聞こえる。私は全く面白くはないというのに。承太郎といい花京院といい、この人達なんでこうなんだろうか。花京院は承太郎とは違うと思っていてもたまにこういうところを見ているとこの二人仲良いだけあるなあと考えてしまう。でもよかった。花京院に嫌われなくて。それだけですごく肩の荷が降りた様な気分だ。本当に心が広いというか、私には勿体ないくらい最高の友達である。


「また聞かせてくれないか、その続き」
「話すことなんてなにもないからッ」
「明日の大学が楽しみだよ」


この時、ふと頭にディオの存在が過ぎる。私にとって仲がいいというのは花京院や承太郎みたいな存在のこと。きっと私がディオに真意を迫ったのは、こういう関係になりたかったのだと思ってしまった。今になって思い出すようなことでもないというのに、私はいつかこの甘ったれた自分に後悔する日が来ることをまだ知らない。

20200804