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以前もこんなことを考えたことがあったが、承太郎は昔からあまり私に怒ったりする事はなかった。うるさく騒げばそれに対して苛立っているような様子を見せたが、それでも承太郎がわたにし怒る事はなかった。今はそうだ、ディオと関わったばかりに怒っているよりも呆れているという言葉が適している。あんなに助けてもらっておいて、それはないだろうと思われても仕方がないのだ。自業自得。そんなモヤついた気持ちを抱えながら、この日は三人でいつも通り話して帰った。普段通りと平然に振る舞っても、この勘の鋭い二人は私の気持ちに気づいていたはずだろう。
その微妙な空気に気を使ってくれたのか花京院がクレープを食べに行こうと提案してくれ、これで気分を紛らわせれたらと思い、久しぶりに三人で向かうのだった。

「高校生の時は、よく三人で寄り道をしたな」
「一日中クレープクレープ騒ぐアホがいたからだろ」
「それでも承太郎ついてきてくれたじゃない」
「名前の事が心配だったんだよ」
「おい」
「おっと、すまない承太郎」
「心配?クレープ如きで何を?」
「これ以上、豚にならないようにな」
「いいいいいい!!!ムカつく!!!!!」

いつもこんな憎たらしい事を言ってくるので後ろから頭突きを喰らわせようとしたが、避けられて一人虚しく転けそうになる。咄嗟に承太郎が腕を引っ張って助けてくれた。その隙を狙って再度頭突きを試みるが、片手で頭を掴まれ髪をぐしゃぐしゃにされるのであった。豚じゃなくて猪だと笑う承太郎に悔しくって花京院に助けを求めたのだが、懲りないなと言いながら花京院は私の乱れた髪を直してくれた。こういったやりとりは昔から変わらない。
クレープ屋について今日は何を食べようかと迷っていた。生クリームは絶対欠かせないし、今日はカスタードもいい。イチゴかバナナかブルーベリーかで迷っていたのだが、ブルーベリーに決め頼もうといた所で承太郎が代わりに注文してくれていた。何も口にしていなかったと言うのに、承太郎は私が頼みたかったものを言ってくれる。承太郎に関してはいつもこんな感じだ。言わないだけで実はエスパーに違いない。

「承太郎よく分かったね」
「同じ所何回も見てればわかるだろ」
「私ってそんなにわかりやすい?」
「超がつくほどな」

小馬鹿にしてくるような言い方だったがここは堪え、頭の中では承太郎にパンチを喰らわせてやる。頭の中だけだが。しかしすぐにクレープが出来上がって自分のクレープを目の前にすると、先程の苛立ちなんてどうでも良くなってしまった。花京院のクレープはまたチェリーがのっている。好物だとはいえ、よくそんな毎日食べていて飽きないと感心してしまう。それに承太郎はここにきてもコーヒーばかり頼んでいた。ほんとクレープ頼まないくせに、よくいつもついてきてくれるよなぁ。
奇跡的に同じ大学へ進学したお陰で、また同じように寄り道ができた事が嬉しかった。きっとこの三人ならば卒業してそれぞれの進路に進んでも、仲良くこうやって出かけたりしそうだが。本人達には言わないが心の中では感謝していた。こんな自分を受け入れてくれたことに。

「おい、口についてるぞ」
「え?どこに?」
「ガキか」

右の頬ばかり擦っていたのだが生クリームが左頬についていた様で、それを承太郎が片手で取ってくれた。なんだかんだ承太郎も花京院と一緒で面倒見がいいんだよなぁ。お礼を言って再びクレープを口にする。食べるのが遅い私を2人は待ってくれたのだった。
そうして食べ終わり、再び家に帰ろうと歩き出す。私の家は駅からすぐ近くな為、花京院と承太郎とは直ぐに別れる事となる。そうなると、いつも家まで見送られるような形になるのだが、これも当たり前の光景になってしまっていた。また明日、そう言って家に入る。クレープを食べた私は大いに満足し、すっかり承太郎と気まずくなっていたのを忘れて呑気に家へと入ると見知らぬ靴を見かけた。親の客人だろうと思い、リビングに入るとその姿に立ち止まってしまう。

「やあ」

目を疑った。何度も目を擦ったり、頬をつまんでも視界にはディオが映る。一体どういう事かと思えばお母さんが奥からやってきた。

「ディオくんがわざわざお菓子のお礼を持ってきてくれたの!」
「いえ、あんな素敵な心遣いに感動してしまって」
「あなたこんなかっこいい友達がいたなんて、お母さん嬉しいわ。そうだ、夕飯一緒にどうかしら?」
「申し訳ないですよ」
「そんな事ないわ!昔よく友達連れて家に来ていたから慣れているわ」
「友達?」
「承太郎くんと、」
「お母さん!!!!!」

ディオの前で承太郎の名前が出てきた事に焦って遮るが、ディオの表情が一瞬怖いと思うくらい無になった。承太郎ですかと呟き、それならお言葉に甘えてというディオ。母ではなく私を見ていた。嫌な予感がした。また何か不吉な予感が起こるよう気がして。そそくさと準備を始めるお母さんの後を追い、手伝うといえばディオと一緒にいる事を勧められた。よくみると夕飯を作りかけていたのか、ある程度の支度は出来ている。ディオとお母さんがどういう会話をしていたか知らないが、お母さんの上機嫌な姿にこれは好印象を持っているなと嫌になる。

「突然すまなかったな」
「どうして私の家がわかったの?」
「君の友達が昔教えてくれてね。僕より早く帰ったはずなのに、どこか寄り道でもしてたのか?」
「そんな事、関係ないじゃない」
「冷たいな。まさかだと思うが、承太郎とどこかへ出かけたのか?」

いつもピンポイントで確信へとついてくる。あれは知っているような感じだと、流石に馬鹿な私でもわかった。ここまで来ると疑い深くなってしまう。病院送りになったあの取り巻き女といい、私の友人といい、承太郎はディオが怪しいという。これまで関わってきたディオは当たり障りのない振る舞いだった。たまに見せるこういった一面に、不信感が消えない。なのに彼の過去を聞いてしまうとディオにも何か事情があるんじゃあないかとわからなくなる。何かこれという悲劇を目の当たりにしない限り、やはり私はまだ彼を突き放せそうになかった。
晩御飯が出来たわという母の声を聞いて手伝いに行こうとすると、ディオは小さな声でいい母親だなと呟いた。それだ、その悲しそうな表情こそが私がディオを突き離せない原因だというのに。

ご飯を並べて三人で囲う。花京院と承太郎なら気にせず振る舞えるが、相手がディオとなれば、物凄く気まずい。初めて昼ご飯を共にした時も、この前の外食もそうだ。最悪だと一人悩んでいることを、お母さんは知らない。そんなふうに考えていると、携帯が鳴った。誰のかなんて着信音ですぐにわかる。私の携帯だ。三人の視線が自分に集まるが、私は電話を切る。うちの家庭はご飯中に携帯を触ると怒られるのだ。画面の表示は花京院からで、ご飯を食べたら直ぐにかけ直せばいい。

「いいのか?電話に出なくて」
「いいの、また後で電話するから」

ディオは気使ってくれても、親がそれを許さない。携帯をポケットにしまい、再び箸を進めた。相変わらずお母さんったらディオに質問攻めで、私が何か話題を出したりする必要はなさそうなほど。友達なんて承太郎や花京院くらいしか連れて来なかったので、きっと嬉しいんだろうな。あまり女友達のいない私を、お母さんは多分心配していたから。

「いいなあ、イギリスだなんて」
「イギリスにくる事があれば、案内しますよ」
「ディオくんがいれば心強いわね!」

お母さんとディオの盛り上がり具合に引いてしまう。イギリスなんて日本から何時間かかると思ってんの。行くなら一人でいけばいい、私は知らないからね、なんて考えていた。先にご飯を食べ終わり、早速リビングから出て花京院に電話をし直した。何か急ぎの用事だったのか、着信が2件も入ってるなんて珍しい。そして花京院が電話に出たのは直ぐだった。

「もしもし名前ッ」
「ごめん、ご飯中で」
「承太郎が怪我をしたんだッ」

この胸騒ぎはなんだろうと思っていた。あぁ、やはり悪い予感が的中したようだ。まさか本当に不吉な事が起こるなんて。冷静になれと意識しても、なんだかこの胸の奥で小さなモヤモヤした黒い何かが、自分の体の中で大きく広がっていく。

「ただの怪我なんてもんじゃあないッ、ふ、腹部を刺されたんだ」
「なんで、」
「僕に絡んできた不良を承太郎が庇って、それでッ」
「いま一緒にいるの?直ぐに行く。場所を教えて」

普段穏やかな性格であるというのに、声からして花京院が取り乱しているのがわかった。無敵かよっていうくらい喧嘩で負けを知らない承太郎が、病院送りになったなんて。承太郎の危機を感じると、いても経ってもいられず直ぐに出かける準備をした。リビングに戻ると、何処かに行くのかと声をかけてくるディオ。用事が出来たと告げれば自分も帰ると返すが、時間がなかった私はディオをそのまま置いて外へ飛び出した。

20200524