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あのあとアバッキオはどこに行ったのだろうか。後に兄に聞いたが、私の居場所を突き止めたのはアバッキオのおかげだといっていた。なぜか無くしたはずの財布も兄が持っていて、どこで見つけたのかと聞けば荷物は全て気を失った場所に落ちていたということだった。兄になぜあの男と関わりがあったのかと聞かれ、私も怒られる覚悟で素直に話すことにした。兄は自分では冷静に話を聞いているつもりだったのだろうが、口元が引きつっているのできっと内心は気が気ではないはずだ。また家に閉じ込められるのかと覚悟していたのだが、兄はそんなことがあったのかとそれだけを言うのみ。全く怒らなかったし、これからは夕方までに家へ帰って来るならば外に出ていいと許しを貰えた。まさか、こんな展開になるなんて。素直に言った私に免じてくれたのだろうかと、内心舞い上がってしまった。それだけではなくこの事件をきっかけに、兄は頗るほど優しくなった。気持ち悪いくらいにいい笑顔で、どこにいくかと帰って来る時間だけ守ればいいと言うのだ。それとてんとう虫のお守りを貰った。危ない目に合わないように、必ず出かけるときに持ち歩いて欲しいと頑なに言われたので、出かけるたびにこれを持ち歩いている。この豹変ぶりに心底驚いたが、私が試しに一人で出かけようがなんだろうが兄は本当に後をついてこなくなった。
真の自由を手に入れた私は早速アバッキオへと連絡を取り、遊ぶ約束をこじつけた。そうして久々に会ったものの、アバッキオはあの日の事件を深く聞いて来ることはなかった。しかし意識はしているのだろうか、絶対に行きはお迎えに来てくれて、帰りも送ってくれる。一度や二度のことではない。外に自由へでかれられることだけではなく、アバッキオとの外出の頻度が増えれば増えるほど、私のテンションもピークに達してしまい毎日が天国と勘違いしてしまうほど幸せな気分だった。ついに、望んでいた日々を手に入れたのだ。あとはアバッキオがあわよくば自分の恋人にでもなってくれれば、もうこの世に思い残すことはなにもない。私は喜びを隠しきれず、アバッキオと一緒にいようがニヤケが止まらなかった。いや、このまま良ければいつかはアバッキオに告白したいと考えていた私は、唯一私の心情を知るフーゴに相談したことがあった。どうしたらアバッキオの好みになれるだとか、どうやって彼を振り向かせればいいのかを聞いたのだが、彼はこう言うだけだった。

「そんな張り切らなくたって、ありのままでいけばいいんですよ」
「ありのまま?」
「素顔の方が魅力的なこともあるじゃあないですか。君もアバッキオの素顔に惹かれたんでしょ」
「た、たしかに...」
「もう既に惹かれてたりして」
「え?どういうこと?」
「さぁ?」

さぁ?って何それ。既に惹かれているだなんて、あり得ない。いや引かれてるなら可能性があることにショックを受ける。自分に怠ることなど山ほどありすぎて、こんな年下の自分よりアバッキオは大人のお姉様の方がいいに決まっている。兄と喧嘩していたときに、アバッキオは子供っぽいのは好きじゃないと言っていた。考えれば考えるほど、落ち込むばかりでやけになった自分は当たって砕けることにするのだった。もし結果が残念だったとしても、自分が意識してもらえるチャンスだと思ったからだ。それに何回かアバッキオとはのちに出かけたものの、断られることなんて一度もなかった。面倒見がいいので、アバッキオにとって私は妹みたいな感覚なのだろう。それなら尚更この関係をやめてしまわないといけなかった。覚悟を決めて化粧や身嗜み、お洒落に力を入れる。これで振られようが諦めるつもりはない。兄には約束通りしなければいけないことがある。

「アバッキオと出かけてくる。夕方には帰って来るから」
「お守りは?」
「持ってる」
「いってらっしゃい」
「いってきまーす」

以前の兄なら頑なに私の外出を拒んでいたが、今はこの通り普通に外に出してくれるのだった。当たり前になってしまったこの光景も気にならなくはなり、私は時間は十分にあるのにアバッキオの元へ小走りで向かう。なんだか今日告白すると考えてしまえば、落ち着けなかったからだった。多少は大人っぽくしようと気をつかったものの、アバッキオ自身が落ち着きがあるためか、いくら頑張っても釣り合うようになるような結果が出ているのかは自信がないところだった。だからこそ不安はあるが、考えていてもしょうがない。心はすでに決断していた。待ち合わせ場所にアバッキオが待っていてくれてる。声をかけて、共に歩き出した。目的場所といってもわざわざ告白場所を選んだとかいうわけではなく、いつも通りご飯を一緒に食べたりだとか、私の行きたいところについてきてもらったりという感じだった。そう、いつも通り過ごしていたといってもやはり頭の中では告白することばかり考えて、ろくに話に集中できない。そんな私を不思議に思ったアバッキオが何回かおかしいと気にかけてくれたが、その鋭さが今は痛いものだった。帰り際に話があるということで、何を察したのかそれから何も言ってこなくなったものの、逆に気まずい雰囲気になってしまったので申し訳なかった。いつも通り、平然にしてなきゃと思っていてもそわそわしてしまう。あぁもう!とやけになってしまい、やっと言いたかった言葉を発しようとした。


「そ、そのね、私ずっと、」
「...」
「アバッキオのことが、す」


好きだと伝えようとすると私とアバッキオの顔の間に何かが通った。虫のようなものだった。しかしそれはすぐに手元へ戻ってきた。訳がわからず、アバッキオを見ると何やら機嫌が悪そうな顔をしている。あれ、これって振られるやつだろうかとショックを受けていると、アバッキオが突然私の腕を引いて場所を移動するように促した。訳がわからずもついていく。人影のない路地裏に行き、アバッキオが止まった。

「なにかジョルノにもらったか」
「お、お兄ちゃん?なんで?」
「なんとなくだ」
「貰ったっていうか、外出する時にてんとう虫のお守りを持っていけとは言われてるけど」
「なるほどな」

そのてんとう虫のお守りをいつのまにかアバッキオが握っていて地面に落とし、そのまま踏みつける。その行動に衝撃を受けたが、同時にバキバキと機械が踏みつけられるような音がした。おかしい、お守りって確か布だけだったはず。アバッキオが足を退けると黒く丸い機械が破損されていた。

「あいつに発信器なんて必要ねーから盗聴器とかなんかだろう」
「正解です」

どこからその声がするのかと辺りを見渡すとすぐに後方で兄の姿を見つけた。盗聴器って、じゃあ今までの会話全て聞かれていたのだろうか。

「名前。その男に告白しようなんて無謀だ。はやく家に帰ろう。アバッキオにその気はない」

そう言って追いついた兄が私の腕を引っ張りこの場をさろうとする。いきなり引っ張られれば、こけないように私も前へと進んでしまう。全然理解できない状況にただ困惑していた。兄は最近までは優しかったはず。しかしこれこそがいつも通りの兄だ。今ならわかる。きっと猫をかぶってあんな優しい態度をしていたのだろう。本来の目的はきっとアバッキオに告白させないようにしているだけだった。アバッキオをおいて二人でどこへ行くのだろうか。

「気はないって、そいつは誰が決めたんだ?」

兄はその発言を聞いて、思わず足を止める。背後からアバッキオがこちらへ歩いて来るのがわかった。今の言葉が気になって振り替えられずにいるうちに、私をつかむ兄の手をアバッキオが上から被さるように掴んだ。

「生憎だが、俺も名前に気持ちがあってよォ。そういうことだから、仲良くしようぜジョルノ」
「僕は名前以外要りません」
「そんな兄ちゃんだとまた嫌われるぞ」

そう言って今度はアバッキオに引っ張られてただただついていく。先程の台詞は両想いと思っていいのだろうか。何かが自分の中でじわじわと広がっていく。考えれば考えるほど、このどこにぶつけたらいいのかわからない感情が爆発してしまいそうだ。後ろから私を呼ぶ兄に言うことがあった。

「そう言うことだから、お兄ちゃん!今後応援よろしくね!」
「絶対応援なんてしないぞ!やめるんだそんな男!自分の小便飲ますような男なんてッ」
「アバッキオがそんなことするわけ」

突然止まってこちらを振り返ったアバッキオが、気まずそうな顔をしている。あ、この反応はまさか。そのまさかだ。
まあでもきっと兄もあんな失礼な態度をとっているしおあいこになるだろう。思わず笑ってしまうと、アバッキオは一瞬驚くも同じように妖艶に笑う。さて、どこまで二人で逃げれば、兄は諦めてくれるのだろうか。見ての通り、私の兄は普通ではない。度が過ぎるほど心配性の過保護だ。アバッキオも私も、この先苦労が絶えないだろうが、それ以上に一緒にいられることほど幸せはないと信じて再び走り出した。

20200715