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ろくに恋愛をした事がないが、よくドラマでみた失恋した女の子が、毎日のように涙を流してストレス発散をしているのを見たことがある。悲しい事があればそりゃ私だって泣くけど、そんな毎日の様に泣くようなことはなかった。きっと失恋を知らないだけだ。縁がないものだと思っていた自分が、そう気になるようになったのには理由がある。
ついこの間、私が兄と久々に喧嘩をした。だってアバッキオが私をたぶらかしてるだなんて言うんだもん。そうじゃないって言ってるのにもう走り出したら止まらないものだから、やけになって嫌いだとはっきり伝えてしまった。あのあと兄は何処かへ走って消えたかと思えば、夜遅くには家に帰ってきてわんわんと声を出しながら大泣きしていた。普段あまり感情をあからさま出すようなタイプではないというのに、この変貌ぶりには流石の私も驚いた。わざとなのか、泣きながら私の様子を伺っている。私だって謝る気はさらさらない。そもそも何故こんなにも兄が私に執着するのかわからなかった。きっと唯一の家族だというのが一番の理由だと思うけれど、度が過ぎている。
次の日の朝、爆睡をかましていた私に対し、兄はずっと何かをボソボソと呟いていた。目の隈が酷いので、寝れなかったのだろう。面倒なことに一緒に朝ごはんを食べても、私を見てボロボロと泣き出す。そんなに泣かれてしまえば、心が痛まないわけはない。だからといって私だって自立したいんだ。ここで下手に兄を甘やかせば、またつけ上がってろくなことをしないだろう。兄と目が合うのでわざとそっぽを向くと、握っていたはずの箸が床に落ちた音がした。反射で思わず兄を見るもこの世の終わりというくらいに絶望しきった顔をしていた。それを毎日のように続けられれば、私も三日で限界が来たのだった。これじゃあどちらが兄妹かわからない。

夕飯の買い物をする為に一人出ていっても、不審者のように物陰に隠れてついてくる。ここで兄が外に出るなと怒らなくなったので、少しは反省したのだろうか。しかしその帰り道で偶然にもブチャラティと会ってしまう。向こうも私に気づいて話しかけてくれるのだが、察しのいいブチャラティは私の背後にある数メートル離れた電柱の裏に隠れるジョルノを見通していた。

「アバッキオから聞いたんだが、ジョルノと喧嘩したんだって?」
「久しぶりにね」
「ジョルノが病気がちで任務に参加できないから、暫く休みをくれと言い出してな」
「え?」

思い返せば兄はそういえばこの三日間家にいた。任務はと聞いても、お休みと言われて終わったのだ。そんなの嘘だとは思っていたが。

「あの調子じゃあ、大丈夫そうだろ。見る限り、心が不安定なだけだな」
「ご迷惑をおかけしてます」
「いや、大丈夫だ。ただずっと休まれるわけにもいかないから、どうにか来させれるようなことはできないか?」
「やれるだけやってみます...」

家族の時間を大切にしてくれと言い、肩を二度三度軽く叩かれてこの場を離れて行ったブチャラティを見つめていた。流石に他の人に迷惑をかけているとなれば、やはりやりすぎたのだろうかと後悔が過る。自分もこの喧嘩を長引かせる気はない。丁度後ろに兄がいるし、話でもしてみようかと振り返れば真後ろに兄がいた。びっくりして声をあげそうになったところ、兄がなぜか私の肩を振り払う。

「気安く僕の名前に触りやがって」
「びっくりしたなぁ..後ろにいるから話しかけてよ」
「またアバッキオの所へ行くんじゃあないかと思って」
「情緒不安定、メンヘラ気質ありだね」
「ジョウチョフアンテイ?メンヘラ?」
「都合悪い話になると、日本語わからないフリしないでよ」

素直に呆れた。なんだかんだ言って元気じゃないのと思った私は、家に帰ることにする。

「アバッキオはやめるんだ」
「どうして」
「最低な奴だ。新人イビリがすごくて、僕にアレを飲ませようとしたんだぞ」
「アレって何」

再現をしだす兄を見て思った。まぁ、なんだか言葉に出すのも恥ずかしいのだが、尿ってことだろう。アバッキオを幻滅させたいがために私にそんなことを言うの?私を助けてくれたアバッキオがそんなことするわけないと話を聞くのをやめた。

「アバッキオは子供っぽいタイプは嫌いだ。名前はそのタイプに入るんじゃあないか?」
「じゃあ大人っぽくなればいいんでしょ」
「あーいえばこう言う!!!どうして僕の言い分を聞いてくれないんだッ!!!」
「私この件に関しては折れる気ないから。それにしつこいと嫌われるよ」

そのまま兄を見ずに真っ直ぐ前だけを向いて歩いていたが、途中で返事がしなくなったので振り返ると兄が頭を抱えてしゃがみ込んでいる。あー、始まった。またぶつぶつと何かを呟いて、自分の世界に入ってしまった。先程のしつこいと嫌われると言った発言が突き刺さったのだろうか。よく耳を済ませれば、嫌われる嫌われる嫌われるとただそれだけをリピートしていた。ここで構えばまた兄が甘えるのだろう。私は知らないふりをしてまた真っ直ぐ家へと帰った。兄を置いて家に入ると途端に着信が鳴る。何気なく携帯をとり、電話に出ると思いを寄せる人からの電話に舞い上がってしまった。

「もしもし、アバッキオ?どうしたの?」
「ジョルノがあれから姿を見せなくってな。..その、大丈夫か」
「大丈夫、お兄ちゃんなら情緒不安定なだけだから..。ごめんね迷惑かけて」
「そうじゃなくて」
「?」
「オメーだよ」

思わず自分を心配してくれるアバッキオにときめいてしまう。でもとりあえずは、大丈夫って言わなきゃ。兄がサボった為にみんな任務で忙しいだろうし。

「わ、私なら大丈夫だよ!」
「っていうだろうと思った」
「(ばれてる...)」
「小せえ時から二人でずっと我慢してたんだろーが。頼れつってんだよ」
「で、でも私買い物に付き合ってくれるだけでも嬉しくって、」
「もう少し甘えることを覚えろ」
「...」

アバッキオはお節介焼きなのかな。不思議と好きになったあと日からそうだった。言わずとも何かを察して言葉をかけてくれる。兄とは仲良くやりたいが、私にだって今回ばかりは譲れない。だけど喧嘩が理由でチームのみんなに迷惑をかけているのなら、私にも責任があった。

「私はアバッキオとはもっと仲良くなりたい。やっと一人で外に出られるようになって、唯一頼れる人だって思ってる。だけど、お兄ちゃんしつこいだろうし、私にとってはたった一人の家族で」
「...考えても仕方ねーだろ」
「え?」
「今全てうまくやってこうとしなくたって、何事も時間が解決する。はやく仲直りでもしてこいってんだ」

なんだかんだ仲が悪い二人だというのに、つまりは気にするなということだろうか。お礼を言って一先ず電話を切ると、まだ帰ってこない兄を探して家を飛び出した。

買い物についてきたはずなのに、帰りが遅い兄を探すために家を出た。来た道を戻り、辺りを見渡すもそれらしき人はいない。全くどこへ行ったんだろうか。普段私にあれこれいうくせに、肝心な兄がこれならもう二度と心配などと言わないで欲しかった。突然家を飛び出してしまったものだから、家の鍵と携帯しか持っていない。すぐに見つかると思っていた私はとても苦労することとなる。日が暮れて、辺りが暗くなってきている。特別治安がいいわけではないこの辺りで、遅くまで探すのは気が引けた。怖い目にあっても、以前のようにアバッキオが近くにいてくれるわけではない。だからほんの少し怖かった。ほんの少しだけ。もう少し兄を探したら諦めて戻ろうと決めていた。

「よぉ久しぶりだな」

そういって後ろから誰かが話していた。自分のことだとは思っていなかったので、そのまま歩き続けると思いっきり肩を掴まれ嫌でも後ろを振り向くこととなる。しかしよくもまあ恐れていたことが現実になるものだ。 

「前のツレはどうしたんだよ。あのやろー、喧嘩強かったなあ。おかげで腕一本折られたり、ツレは顔面殴られて前歯が何本か折られたわ」

この姿に見覚えがあった。私をアジア人の観光客だと思い込んで、カモろうとした三人組の一人だった。そうだ、私を掴んだ男だ。私を助けてくれる為に、アバッキオはこの男を殴り倒していた。
危ないとわかっていたので、すぐに逃げようと走るが叶わず、一瞬で地面へ押さえつけられた。

「なぁ、呼べよそいつ」
「離してッ」

暴れてどうにか隙をつこうとするが、頭を掴まれ二度三度、地面へとぶつけられた。その衝撃で意識が朦朧としてくる。こんなつもりじゃなかった。きっと、言うことを聞かないからと兄は私に怒るだろう。喧嘩なんてしている場合じゃなかった。私がいけなかった、私が全部。

20200705