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兄のブローチが机に置いてある。普段欠かさず身につけているものだ。それだけではなく、珍しく財布も携帯も忘れて行った。兄が忘れ物なんて余程しないが、流石に財布はないと困るに違いない。仕方なく届けに行くことを決めた。ひょっとしたらアバッキオが働く姿が見れるんじゃないかという淡い期待が大きかったのが本音だ。たかが財布を届ける為だけだというのに、張り切ってお粧しをして服も気合を入れた。靴はこの前アバッキオに選んでもらった物を履くことにしよう。さて外に出ようとドアノブに手をかけようとした。あれ、おかしいな。ドアノブがない。ドアに大きく外出禁止とスプレーで書かれてある。因みに今回もイタリア語と日本語更にはご丁寧に振り仮名までふってあった。ここまでするか?という疑問が生まれたが、恋する乙女は無敵だ。今日は無謀にも窓から部屋を出ることにするのだった。

外に出てそう遠くはないレストランへ向かう。兄がいてくれればいいのだが、会えなくても結局私はアバッキオさえ会えればいい。兄がいなくたって私はもう一人で街を歩いていけるのだ。いつもより早歩きをして向かうと入り口でフーゴに出会った。なんだかこうもタイミングよく会うとお互い顔を見て笑ってしまう。

「どうでしたか?アバッキオとのデートは」
「幸せだったわ。本当にありがとう」
「僕は何もしていませんよ」

きっと昨日の態度で、頭のいいフーゴは私の気持ちに気づいたのだろう。少し照れ臭い感じもしたが、話せる相手がいる事が嬉しかった。

「アバッキオなら店内にいます」
「あ、今日はそうじゃなくってお兄ちゃんの忘れ物を届けに..」
「ジョルノ...ですか。彼も店内にいるとは思いますが」
「それならよかった」

兄の名前を出すと不思議なことに一瞬、間が開いたような気がした。私はフーゴに教えてもらった通りに店内へ入っていくと、そこには兄の姿が見える。背を向けている為に私の存在に気づかないようだったが、反対にいるアバッキオとブチャラティは私の存在に気付いていた。二人とも優しく微笑んでくれたので、簡単に挨拶を済ませると声に気付いて兄がこちらへ向いた。 

「名前..どうしてここに」
「お兄ちゃん、財布と携帯とブローチ家に忘れてったでしょ」
「財布...ドアノブは撤去したはずだ。そんなことよりどうやってここへ」
「内緒。元に戻しておいてね、ドアノブ」

兄は私を見て、何故だと言いながら肩を掴み揺らす。そんなに知りたいものなのだろうか。絶対に言わない。窓から出たなんて言えば、次は窓に何かされるのはわかっていた。私を閉じ込めようと必死な兄に答えなんか言ってやるか。兄が忘れていった荷物を無理やり押しつけて渡すが、受け取ってくれなさそうだった。
兄の顔みるくらいならアバッキオ見ていた方が全然いい。誰か助けてくれないかなとそっぽを向いていると、ブチャラティが何か好きなものを頼むかと聞いてくるのだった。その心遣い素敵。メニューを貰い、兄を避けて席につき、好きなものを頼むのだった。その間、兄が隣で説教をしてきたのだが、全く聞く気はなく無視をし続けるとおとなしくなり、どうしたものかと心配になって彼を見れば、紙とペンを持っていた。紙に何が書いてあるのか覗き込めば、私たちが住む部屋の間取りが描いてあった。ぶつぶつと呪文のように何かを呟いている。どうせ次はどう家に閉じ込めようかとか、そんな下らないことを考えているのだろう。

「ジョルノがあんまりにも君のことが心配みたいでな」

そんな様子を見てブチャラティが口を開く。私はそれを静かに聞いていた。

「任務は切り替えて取り組んでくれる。とても頼もしいんだが、それ以外はこの通りいつも君のことを考えているだ」
「俺は真平ごめんだぜ、そんな毎日縛られるような生活なんて。だいたいジョルノは過保護すぎるんだ」
「アバッキオ、こんな可愛い妹がいたら過保護になるのもわからなくないだろ」
「俺にはわからねーな」

以前アバッキオと話したときに、兄への印象はあまり良くないものだとわかっていた。別に兄とアバッキオが仲良くしてほしいというわけではない。私は私で、兄は兄。兄がこうだから私もと決めつけられるのは、また違うと頭で勝手に理解していた。もしそれで私を判断されるなら、それまでだということ。でもアバッキオはそんな兄の妹だというのに、毛嫌いしているようには見えなかった。どうして兄のことが嫌いなんだろう。逆に兄は一番下っ端というのによく頑張っているなと捉えたいが、隣で真剣にどう私を閉じ込めようか考えている姿をみると同情したくなくなった。
ブチャラティが街の人に呼ばれて席を立ち、アバッキオももうすぐ任務の時間だという。どう普段は任務をこなしているのか気になったが、私がついていけば確実に足を引っ張るのはわかっていた。用も済んだ事だし、私も帰ろうかなと思って席を立った矢先のことだった。
アバッキオが先に店内を出ようとしたのだが、私の方を見てこう言った。

「靴、似合ってるじゃねーか」

私は思わず頬が緩んでしまう。アバッキオが選んでくれた、それだけで嬉しかった。だからお気に入りの靴となって今日履いてきたというのに。彼は私の足元を見て、自分が選んだ靴だと気付いてくれたのだ。フーゴにこの話を聞いてもらいたい。彼はまだこの辺にいるだろうかと思い、店を出ようとしたときだった。
先に兄のジョルノが私を追い越し店を出ていった。物凄い勢いで走っていく。何かあったのだろうか、またテーブルにてんとう虫のブローチや財布、携帯を置き去りにして。私はそれらを持って兄を追いかけて外へ出た。どうやら兄はアバッキオと話があったようで、レストランを出てすぐ二人を見つける。近寄ってみると、会話が耳に入って思わず足を止めた。

「妹を連れ回してたのはアバッキオ、あなたじゃあないんですか」

まだデートが1回目だというのに、兄に言う前にバレてしまったようだ。一体どうして。またいつものように誰にでも言っている台詞なんじゃないかと思ったが、兄の真剣さに違和感を覚える。兄は一体どこで気付いたというのだろう。止めに入ろうと兄に近寄って間に入り、兄の腕を掴むと思いっきり私の腕を拒絶するように振り払った。その反動で持っていたブローチを落としてしまう。私は足元に落ちたブローチを取ろうと視線をそこに向けると、ふと自分の靴が目に入った。
「靴、似合ってるじゃねーか」
先程言ったアバッキオの台詞が頭を過ぎる。あの場に兄はいた。兄はきっとその台詞で気づいてしまったというのだろうか。

「それがどうした。いい加減名前を自由にしてやったらどうだ」
「家族の問題を他人にとやかく言われる筋合いはない。これは僕の問題だ」
「お兄ちゃん、私がアバッキオを誘ったの!!彼は悪くないわ!」
「名前、どうしてそんなに僕の言うことが聞けないんだ。アバッキオにたぶらかされているに違いないッ!」
「だから私が誘ったって言ってるでしょ!!」
「外は危ないところなんだ。もっと自分が女性であることを自覚しろッ!」
「うるさい!お兄ちゃんなんか大嫌い!!もう口を聞きたくない!!!」

アバッキオの目の前で彼を悪く言うものだから、私もカッとなって言ってしまった。喧嘩をするのは久しぶりだった。だっていつも私が相手にしていなかったからだ。言い返す自分にハッとしたが、ここで後戻りしたら二度と外へ出してもらえないだろうとわかっていた。
兄は一歩、二歩後退りして私たちから離れていく。

「き、嫌い、名前が僕のことを、嫌いだと、」

見る見るうちに顔が真っ青になっていく。そうして離れていくように走り去って消えた。あんな兄の姿は初めて見たのだ。

「おい、相当あれはダメージくらってるぞ」
「知らない。あんな酷いことを言うお兄ちゃんがいけないんだもん」

あとで仲直りでもしろよと言って頭を撫でられたのだが、きっとアバッキオは私の心を見透かしていた。人が傷つく姿を見ていると、後悔しない訳はない。私は手元に残る兄の忘れ物をただ見つめていた。

20200521