めもがき | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

2023/02/10

: more

misty

教授が、今日はいい案を思いついたから集まれる人は集まってくれ!と、なんとも気分屋なメッセージをゼミのメンバーへ一斉送信。これはいつものことだったが、これを無視すると後々面倒なレポートを提出しなければいけない。ゼミを出席して半日で終わらせるか、欠席して2日かけてレポートを作成するか。後者はもう私の選択にはなかった。重い足取りで向かうと、そこにはメンバーが8割くらい揃っていた。今日はまだ集まっている方だななんて呑気なことを考えていた自分を殴りたい。終わった頃には日は暮れていて、終電間際までやらなくたっていいのにと心の中で叫んだ。
全速力で駆け込んだ電車。間に合ったことに安堵したが、本気を出しすぎて呼吸が上手く整わない。ああ、走った後のこの時間が一番苦しくて、やだなあなんてぼんやり考えていると、椅子をポンと叩く音がした。そちらへと目をやると、一緒にいたはずの仗助は既に席へ座っている。何も考えずに隣に座ると、私の方が断然、息を乱して疲れていたのがわかる。仗助、全然余裕そうだ。

「教授、最後の顔見た?」
「嬉しそうだったやつ?」
「そー。あの顔が見れるまで帰してもらえねーけど、今日のは格別に成功したって感じの顔でよォ」

ケタケタと笑って見せる仗助に私もつられて笑ってしまう。こんな疲れ切った時に笑わせないでほしい。

「今日の気分を保って、もう今月は急に呼び出ししないでほしーぜ」
「絶対無理無理。毎週呼び出しされてるよね、うちら」
「他の奴らはちけぇからいいんだけどよォ。俺たちは早めに帰してくれよなー」

眉を上げて困った表情をつくった仗助の気持ちもわかる。大学四年目になるが、大学生活の後半なんてほぼゼミの時間だらけだった。そんな同じゼミで過ごしていれば、近い存在となってしまい、最寄駅が一緒だったこともあって時間が合えばこうして共に帰宅していた。
大学から最寄りの駅まで30分以上。1人で乗車すると長く感じるが、友人がいればあっという間の距離だった。
仗助は話せば気が合うし、一緒にいても笑顔が絶えないし、最高の友人だ。一緒の高校へ通っていたはずが、仲良くなったのは不思議なことに大学からだった。もっと早く親しい関係になれたらよかったのに、と仗助と話すたびに思う。

ふと2人のスマフォが同じタイミングで通知音が鳴った。ということは、ゼミのグループが動いたとわかる。スマフォを取り出して、通知をタップすると、その予感は的中した。恐る恐るメッセージを開くと、そこには研究資料を片手に、満面の笑みで映る教授の写真があった。明日もよろしくとメッセージも添えて。
「げ!明日も?!」なんて言いながら脱力していく仗助。私もこればかりは、心の中で涙を流した。教授の研究室にいかないといけない予定ができた。きっと明日もこうして仗助と、終電間際に全速力で駆け巡るのだろう。

「あ、今日は次の駅で降りるね」
「はあ?!終電だぜ?」
「うん」
「どうやって帰るつもりだッ!」
「それは、」

暗くなっていたはずのスマフォが、明るくなる。そこに表示されていた文字に、仗助の視線が向けられた。彼の目尻の下がピク、と動いたのを私は見てしまった。お互いの話が出てくることは絶対にないが、今の反応が全てを表していた。何年経とうがこの2人の関係は改善することはないようだ。
そう、露伴が仕事で最寄りよりも三つ前の駅の近くにいたようだ。偶然だから待っててやる、なんて一方的に約束されたが、きっと彼のことだ。私と一緒に帰りたかったのもあるし、こうやって終電間際に帰ることを心配してくれていたのだろう。

緩やかなブレーキがかかるのがわかった。ここで降りなければと席を立った瞬間、前に踏み出した足が進まない。

「いくな」
「...え?」

静かに扉が開いた。人がいれ違うと同時に冷たい風が車内へ入ってくる。

「...なんでもねえ。また明日」

何か用があって私の腕を掴んだであろう仗助の手が、すぐに離れて行った。私は何事もなかったかのように、手を振って電車を降りた。再び冷たい風が、頬を掠める。
仗助は行くなと言った気がした。わからない。声が小さくて聞き取りづらかったが、私にはそう聞こえた。先程まで楽しげに会話していた仗助の表情とは一転していた。俯いてあまりみえなかったが、普段の仗助らしくはなかった。仗助の行動が気になって、ふと足を止めて進んでしまった電車を目で追った。
いや、勘違いだ。何か悩み事があって、私を引き留めたのかもしれない。明日、軽く触れてみるのもいいかも。話すのは本人の自由だし、友人の助けにはなりたいから。
遠くで私の名前を呼ぶ声が聞こえて、止めていた足を動かした。

20220205
仗助→夢主⇔露伴