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2021/07/03

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承太郎は焼けるような砂の海の上を歩きながら思い出していた。エジプトの暑さは日本の夏の気温とは比べ物にはならないが、その猛暑がある記憶を呼び起こす。
それは登校中の話だ。とある女子高生が倒れた。それも承太郎の前を、偶然歩いていた時だった。ふらふらと足が覚束ないのは気になっていたが、まさか倒れるだなんて思ってもいなかった。承太郎の周りを付き纏っていた女子は途端に悲鳴を上げると同時に、承太郎は側へ駆け寄り腕へと抱きかかえ、保健室へと向かった。幸い、学校が目で見える距離にあったことから、すぐに駆け寄ったのはいいが、意識が朦朧としていたので一刻も早く適切な治療が必要だ。

校門で立つ教師が心配して事情を聞いたが、承太郎はそれどころではなく最短距離で保健室の扉までたどり着いた。荒々しく扉を開けたことで、中にいる女医も目を丸くしていた。

「登校中に目の前で倒れた」

承太郎が女子生徒をベッドへ下ろすと、彼女は意識が戻ったのか何かを発しようとしたが、承太郎に安静にしろと止められた。そして女性医の適切な対応を、少し離れたところで見る。専門的な知識のない自分が、ここに居合わせたところで意味はないと思った承太郎は、部屋を出た。

初対面でもなければ、名前を知らなかったわけではない。承太郎は彼女から数日前に告白されたばかりだった。何がきっかけで彼女が自分を好いてくれたのかは、承太郎には興味のないこと。その日は一旦彼女の親が迎えに来たのか早退したようだが、次の日彼女が直々に承太郎へとお礼を言いに来た。会話は単純なもので、「もう大丈夫なのか」「今は何とも」「気をつけろよ」「本当にありがとう」とぎこちない感じだった。告白される前はもう少し会話が成り立っていたと、その時の承太郎は不信感を感じていた。

そんな彼女は、今はどうしているのだろうか。自分がこうしてエジプトを彷徨う中で、彼女は普段通りの日常を過ごしているのだろう。なぜ自分は、今更思い出したりなんかして。

「..太郎...承太郎」
「...なんだ」
「なんだってなんだよ。さっきから声をかけても反応しないから、熱中症かと思ったじゃあないか」

花京院が何度か声をかけた後に、承太郎は自分の名前に気づく。そしてタイミングよく「熱中症」という言葉を発したことが気になった。

「すまねえ」
「なんともないならいいけど..」

そう言って花京院は承太郎から視線を逸らし、前を歩くジョセフ達を見ていた。ポルナレフがイギーに追いかけられる姿を見て仲間が笑っている中で、承太郎は思う。エジプトから帰国したら、もう一度話がしたいと。帽子を深く被った承太郎を見て見ぬ振りをしていた花京院は、その様子を見て小さく笑んでいた。

20210614