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2021/03/25

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わざと

「ありがとな、チョコうまかったぜ」
 自分の机の前に巨人がやってきたかと思えば、可愛い花柄の包装で包まれた箱を目の前に突き出された。一体何の話をしているかさっぱり心当たりがないが、周りの女子は睨むように私を見ていた。これは悪手ないじめである。
「私、あなたにチョコなんて..」
 そう言いかけている途中で、承太郎は自身のクラスへと戻って行こうとした。貰った箱を片手に追いかけて、前を歩く承太郎の腕を引っ張る。名前を呼んでも止まってはくれないからだ。彼の胸元へその箱を押し付けるが、受け取ろうとはしない。
「お前のために買ったんだ。受け取ってくれねーと困るぜ」
「それ以前に私、あなたに何かしてあげた記憶がないんだけど。ああいう目立つことはやめてって、何度言ったら...」
「次から気をつける」
「その言葉に信用性はないわよ」
「じゃあ、お前が俺を受け入れればいいだけだろう。俺は端からやめる気なんてねえからな」
「なんて身勝手な..」
「授業始まるぜ。移動だろ?」
 どうして私のクラスの時間割を把握しているのかと突っ込みたくなったが、クラスからぞろぞろと出てくる生徒を見て自分も支度をしなければいけなかった。

 空条承太郎、この人が私に好きだとストレートに伝えてくれたが、その場で私も好きではないとはっきり答えを出した。私はチョコなんてあげてはいないのに、ホワイトデーでわざとあんな風にみんなの前で言って..。だからここ最近、空条承太郎から好かれていて、実は相思相愛なんていう悪い噂までまわってくる。最悪。誰があんたなんて好きになるもんか。しかし問題は一つだけではない。関わりたくないと表に出せば出すほど、彼を取り巻く女子の視線が痛いのだ。承太郎から逃げれば逃げるほど、変な噂や嫉妬などと第三者から追い詰められる。それが嫌だとやめてほしいと何度言ったところで、承太郎は私から離れていくことはない。寧ろ日に日に悪化していく。もし仮にこの状態で付き合ったって、お互い損するだけなのにどこか自信気なこの男が不思議で仕方ない。

結局私は受け取ってもらえない彼からのプレゼントを、持ち帰る羽目になった。クラスの誰かに見られたらまた変な噂がたってしまうので、隠すようにカバンの中へ詰め込んだ。その日は承太郎が自分の元へやってくることもなかったので、すっかり朝起きたことを忘れ、普段通り過ごしていた。

 それから学校が終わり家に帰る。明日の準備を済まそうと鞄を開けると、承太郎から貰った箱が目に入る。彼は何をくれたのだろうかと気になり包装を乱暴にあけると、そこには私の好きなお店の焼き菓子が入っていた。
 承太郎とはまだ告白される以前に店の前で偶然会ったことがあった。あの頃は互いの気持ちなど考えず、クラスメイトとして気軽に話しかけていた。会話の一環でここの焼き菓子が好きだと話したが、彼はそれを覚えていたようだ。貰って嬉しくないわけではないが、今の状況を考えるとなんだか複雑である。
お湯を沸かし、紅茶を用意しながらふと思い出した。あ、そういえばバレンタインとかではないが、その時に「このお店のチョコも美味しいからよかったら食べて」と自分が食べるために買った物を承太郎へ渡したんだっけ。私はてっきりホワイトデーに渡されたから、バレンタインのお返しとばかり考えていた。してやられたわけだ。全く気持ちがない承太郎へ返すこともできず、目の前の好物に唆られてしまう。自分の意思の弱さに嫌気が差した。はぁ、と大きなため息をついていろんな想いを、紅茶と共に飲み込んだ。
20210321
好きだったらもらって嬉しいけど好きでもないと複雑な話