「昨日、何者かに前代の魔王が殺されました」
「!?」
前代魔王、田舎に住んでいた私は見たことがないが、癒しの魔法が得意な心優しい魔王だと聞いたことがある。
その魔王が殺されたなんて…
「僕ら魔族は、魔王がいなければ統率がとれません。なのですぐにでも魔王を選ばなければならないのです。それで、代々魔王を決めているこの城の地下にある魔法の鏡のもとへ行きました」
学校で習った。
魔王は世襲ではなく、魔法の鏡によって決められると。
「それで、選ばれたのが名前様です」
「わ、たし…が?でも、私、魔法なんてあんまり使えないしっ」
「たとえ、どんな方でも『魔法の鏡』の言った言葉は絶対なのです」
その言葉も授業で聞いた。
でも大体は、魔力が高い人がなるらしい。
「これで、貴女が魔王に就任した理由がわかりましたね?逃げることは許されないのですよ」
「っ、」
ごくり、と唾を飲み込んだ。
「さて、『儀式』も済みましたし、あとは…」
「っ、そうだ。『儀式』。あの、行為はいったいなんだったのですか!?」
「……魔法歴史学で習いませんでしたか?魔王になるには『儀式』をしなければならないのです。それが、血の契約。我々、四大貴族の血を飲まなければならないのです」
「血、四大貴族…」
「ええ、忠誠を誓うとして、魔族の成り立ちから存在する四大貴族の血を飲まなければならないのです」
水を飲んだというのに、未だに血の味を忘れられない。
まだ、血の感触が残ってるみたいだ。
「それにしても、僕らの血が、僕の血が名前様の白い喉を伝っていったわけですね」
するり、と喉を撫でられる。
その行為に冷や汗が流れた。
「こんなにも嬉しく思えるものなのですね…」
「え?」
「いいえ、なんでもりません。僕ら四大貴族、そして魔族全員心より祝福申し上げます」
綺麗な空色の瞳に私が映るのが見えた。
その瞳からは何の感情も読めない。
「……、そろそろだと思うのですが」
「何を、言って……っ!?」
急に心臓が痛み出した。
「やっと始まりましたか。名前様、我慢してください」
「うっ、あっあああああ!!」
心臓が切り裂かれるようで痛い。
そして、体が熱い。
「これが終われば『儀式』は完成します」
「っ、あ、あっいっ…!!」
「僕らの血が、名前様に証を刻んでいますから」
血、血。
血が噴き出そうなくらい熱い。
痛い。
痛い痛い痛い痛い。
「―――――――――っ!!!!」
ふっと、目の前が暗くなるのを感じた。
「…名前様、気を失われましたか」
彼女のドレスの胸元を破り、白い肌が現れた。
その白さに、思わず唾を飲み込んだ。
「ああ、名前様は白いので赤がよく生えますね」
左胸の心臓の上。
そこには、魔王の証として僕らの血で刻んだ牡丹が咲いていた。
「もう、今すぐにでも僕をあなたの体に直接刻みたいですね」
赤の牡丹に舌を這わせる。
「やっと、傍に置いておくことができますね。長かった…」
その瞳には、どんな表情が映っていたのだろうか。
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