魔王になっちまった。 | ナノ
Prologue

そこは、果て無い砂上の上だった。
ぽつりと、人影が見える。
月明りが砂上を照らす中、その人影はただ一人呆然と立っていた。


「………すべて、なくなっちゃった」


ぽつりとつぶやいた言葉は空気に溶けていく。
周りには、人だったと思われる死体が何十、いや何百、何千と砂の上にある。
砂が血で固まり、風で少ししか舞わない。


「………すべて、なくしちゃった」


ぽつりと呟いた人影は、支えがなくなった人形のように砂の上に座り込んだ。
よく見るとその人には、大量の返り血と思われるものが付着していた。


「…全部、全部零に戻っちゃった。また、また創りなおさないと」


その人影が右手にある杖を力強く握る。
ぼそり、と呪文らしきものが聞こえた。


「……、無駄、だよ」


その場で違う一人の声がした。
その声の主は、座り込んでいる人の後ろにいつの間にか立っていた。


「…無駄、だよ。また君は、絶望を味わうの?」


「……絶望、じゃないよ」


「絶望じゃなかったら何?この状況は何?絶望を味わったからこんな事態になったんでしょう?」


後ろに立っていた人影は、座っている人影をぎゅうっと抱きしめた。
無くならないように強く。
また無くさないように強く抱きしめた。


「…探したよ、君を。ずっとずっと何万年も君を探したよ。鬼ごっこは終わりだ。僕の、勝ちだ」


後ろから抱きしめている人物は首元に顔をうずめる。


「………まだ、負けてないよ」


「え?」


「まだ、負けてなんかいない。バイバイ」


その瞬間、杖が光る。
抱きしめていた人物は、急いで離れた。


「―――――っ!!!」


そこには、何の人影も、死体も何もなかった。
風に吹かれ、砂が舞っただけだった。
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