物心ついたときには、もう既に私には両親がいなくて祖母だけだった。
「──まるで名前っちの魔力のことを最初から知っていたような口ぶりっスね」
私の心の疑問をそのまま言った涼太。
「あなたには関係のないことですよ」
その涼太の問いに、冷たい視線と言葉で返す。
そして、テツヤさんは私に白の手袋をはめた手を差し伸べた。
「さあ名前様、そんな下賎な血からこちらへ」
「下賎ってなんスか!」
「下賎、ですよ。汚らわしいと言っているのです。名前様はこの世で気高い、麗しい、崇高なる魔王なのですよ」
言い返そうと思った。
だけど、そんなことテツヤさんの顔を見たらできない。
彼の中では魔王という存在が絶対なのだ。
「テツヤ、さん」
「名前様、早くお戻りください。あなた様は、もうすでに魔王なのです」
魔王。
なりたくてなったわけじゃない。
だけど、ならなければならない。
「名前っち!俺を置いていくなんて許さないっスよ」
涼太が私の腕を掴み、強めに言う。
手には力が籠っていて痛い。
「……涼太、」
「いやっス。いやいやいやいや。俺と離れるなんて許さない」
「下種な少年、名前様から手を放してください!」
テツヤさんの怒りの声は涼太には届いていないようで、涼太は私を見つめたままだ。
「名前っちは俺のなんスよ。絶対渡すものか……!」
「涼太、落ち着いて」
「名前っちは昔から俺のもの……!!」
そう涼太が言った瞬間、空気が揺れた。
目の前に対峙していたテツヤさんは今はいない。
「――――違います。僕の、僕の魔王様ですよ。ずっとずっと前から」
その声は涼太のすぐそばで聞こえた。
涼太は目を見開いている。
テツヤさんは、杖を涼太の腹に当てている。
「なっ!!!」
「涼太!!」
「貴族でもない庶民の一部の下賤な血が。僕ら貴族に敵うと思ってはいませんよね?」
ひどく冷たい。
テツヤさんの瞳はひどく冷たかった。
「テツヤ、さん」
「名前様、どうされます?僕たちの元に戻るか。それとも彼の元に行くか。後者を選ぶなら、死んだ彼と帰ることになりますが」
冷や汗が流れた。
そんなことを言われると、前者を選ぶしかない。
「名前ちん、もう、さ。分かってるでしょ?」
紫原さんの言葉が心をえぐる。
「さあ、どうしますか?」
全員の瞳が私を見た。
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