魔王になっちまった。 | ナノ
止める方法なんてわからなかった

それは、何もかもを包み込んで無にしてしまうような闇だったと聞いた。


「私、赤司さんがあんな恐ろしいことをする人だとは思いません」


テツヤさんの言葉に私はそう返した。
すると、誰かが笑い始めた。


「あはっははははは!」


「…青峰、さん」


「あー、笑った笑った。お前、面白いことを言うな」


「だがな、それは真実なのだよ」


青峰さんの笑いを諭すように緑間さんが言った。


「あいつが、この世でもっとも罪深いことを犯したのは事実なのだよ」


「―――その罪から今日で5年です」


テツヤさんがぽつり、とつぶやいた。


「全てを無にしたこの地を5年で復活させました」


無。
私は、授業で聞いただけだけどこの国を無にしてしまうほどの力だったらしい。


「僕らはたまたま生き残ったのですよ。本当にたまたま。先代当主たちやこの国の偉い方たちは赤司くんと戦い死にゆきました」


今でも目に浮かびますよ、とテツヤさんは続けた。


「あれは、本当に『無』としか言いようがなかったよね」


紫原さんが言った。


「ああ、あの赤司が狂ったように…」


青峰さんは天井を見上げながら言った。


「名前様、僕は許せないのですよ。いいや、許さないのです」


とん、と肩にテツヤさんの手が乗った。
そして、耳元に口を寄せられる。


「だから、忘れてください」


ぞくり、と鳥肌が立った。


「―――黒子、早く食事を始めるのだよ」


「…そうですね、大変失礼いたしました名前様」


黙々と目の前の料理を食べ始めるみなさん。
豪華な料理に目眩がしそうだ。


「……あら?名前ちん食欲ないの?」


「あっ…紫原さん」


私の箸が進んでないのを見た紫原さんが声をかけてきた。


「本当ですね、名前様。どこか具合が悪いのですか…?」


「あ、いえ大丈夫です。ただ、食欲がないだけなので…」


「そうですか…」


不安そうだったテツヤさんの瞳が安心したような瞳に変わった。


「――では、お部屋にお戻りしましょう」


そう言って、私の椅子をテツヤさんが引いた時だった。


「――――名前っち!!!」


聞きなじみのある声とともに、大きな扉が豪快に開かれる音がした。
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