魔王になっちまった。 | ナノ
透明な箱の中、黒く蠢く蟲

大きな扉を開けるとそこには、長いテーブルが置いてあった。
そこに等間隔で座る、3人。
さっき会場で会った人たちだ。


「――待っていたのだよ、我らが新しき第百代魔王様」


緑の髪の人が、立ち上がり言葉を放つ。


「名前様、こちらです」


テツヤさんに連れていかれたところは、最も北側の席。
上座であった。


「さあ、お座りください」


椅子を引かれ、私のタイミングに合わせて椅子をずらす。
テツヤさんはそのまま私のすぐ後ろにいる。


「名前様、改めて紹介させていただきますね」


「え、あ…はい」


「まずは、右手にいる彼。彼は緑間真太郎。四大貴族の地を司る緑間家の当主です」


緑の髪の彼は、私の方を向いて会釈をした。


「緑間、さんですか」


「―――俺は、貴女様の臣下なのだよ」


綺麗な緑の瞳で見つめられ、私は目線を逸らした。


「次は俺だな。俺は四大貴族、水を司る青峰家当主の青峰大輝だ」


青色の髪の男性が言った。
一瞬目が合ってから、その人の視線は私の胸元にいった。


「…やっぱり、女に刻まれている赤の牡丹はいいな」


「青峰くん、口を慎んでください。名前様は魔王なのですよ」


「分かってるよ、テツ」


そう言って彼―青峰さんは、グラスに入っている水を飲んだ。


「名前ちーん」


「へ?」


急に紫色の髪の人に呼ばれた。


「紫原くん!名前様に向かって…!!」


「あ、テツヤさん大丈夫です」


「ですがっ!」


「名前ちんがいいって言ってんだからいーじゃん」


紫原さんの瞳が私をとらえる。


「俺は、四大貴族、風を司る紫原家当主の紫原敦だよ。よろしくー」


「よ、よろしくお願いします…」


私の隣にいるテツヤさんがため息をついた。


「まったく、皆さんは…」


「…皆さん、私と同じくらいの年なのにもう当主なんてすごいですね」


私がの言葉を言った瞬間、その場の空気は凍ってしまった。


「―――え、」


「―――…これはまた、世間知らずな魔王様なのだよ」


「しょうがねーだろ。あんな国境近くに住んでたんだし」


「そうだねー峰ちん」


どういうこと?
皆、知っていて当たり前だという雰囲気だ。


「全ては、あの忌々しい赤司家…赤司征十郎のせいですよ」


低い、低くて憎しみの篭った声だった。


「名前様、赤司征十郎のせいなんですよ」


にこり、と笑ったテツヤさんが怖かった。

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