「――ああ、彼のことですか。貴女は何も知らなくてよろしいのですよ。あんな汚い血を持った赤司家のことなんて」
そう言ったテツヤさんの顔は、ゾッとするくらい笑っていた。
「汚い血…?」
「ええ。我ら魔族を裏切った汚くも卑しい血です」
その瞬間、私はテツヤさんに押し倒された。
いつの間にかベッドのところまで来ていたらしく、受け止めたのはふかふかの布団だった。
「貴女は、貴き我らが魔王なのです。先ほど見たものは忘れてください」
「あっ、はい…でも…」
「でもも何もいりません。僕が忘れてくださいと言ったら貴女は素直に忘れればいいのです」
テツヤさんの顔がグッと近づく。
息が分かる。
「ああ、貴女のその瞳が……」
「え、」
ぺろりと目の近くを舐められた。
「僕は、たまらないのですよ」
ぞくり、とした。
その瞳が怖くて。
逃げたくなった。
「テツヤ、さん!」
私がはっきりと名前を呼ぶと、テツヤさんはハッとして体を起こした。
「…すみません。出過ぎた真似をしてしまいました。廊下でお待ちしておりますので、用意してあるドレスにお着替えください」
そう言って、私と目を合わせようともせず廊下へと出ていった。
「(びっくりした……すごい、心臓ドキドキしたし)」
ふと、ベッドの近くのテーブルにドレスが置いてあるのが分かった。
「…、真っ白」
真っ白な、見るからに高級そうなドレスだった。
私は、それに手を通し着る。
「まるで、囚われのお姫様みたい……」
そんな風に感じるような、白。
何も穢れの無い、白。
ガチャリ
大きな重い扉を開けると、姿勢のいいままテツヤさんが立っていた。
「用意が出来ましたね。よくお似合いです」
テツヤさんは、私に手を差し伸べる。
そして、お辞儀をする。
「さあ、名前様。行きましょう。僕がお連れいたします」
私は無意識にテツヤさんの手に手をのせた。
そして、歩き出す。
「みなさん、お待ちかねですからね」
テツやさんは、ちらっと私の胸を見た。
そこには、赤い牡丹の印がある。
「大変、綺麗につきましたね。何度見てもお美しい。他の四大貴族たちも楽しみにしていますよ」
それは、この痣を見ることだろうか。
この印をみるため、だろうか。
「さあ、着きましたよ名前様」
そこは、私が先ほどいた部屋の扉と同じような豪華な扉だった。
この扉の向こうには何が待っているんだろうか。
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