魔王になっちまった。 | ナノ
少年は蹲まり人を誘う

目の前、あと数センチのところには赤司さんが私に向けている杖があった。


「赤司くんっ!!!??」


「――嫉妬しすぎておかしくなりそうだよ、名前」


その瞳は、昏く陰っていた。


「ねえ、どうしたらいい?君をずっとずっと追いかけ続けて…やっと捕まえたと思ったら君は魔王になっていて…僕は狂いだしそうだよ」


その声、その瞳をどこかで見たことある気がした。


「…赤司、さん。何を言っているんですか?」


私がそう言うと、赤司さんはハッとして杖を下した。


「…そういえばそうだったね、君はあの名前じゃないんだもんね」


「っ―――――!!!いっ!」


「赤司くん!何をしているのですか!!」


私の左胸の咲いている牡丹に、赤司さんは爪を立てた。
それが、皮膚に食い込んで痛い。
もう少しで血が出そうなくらいだ。


「こんな印、君には似合わない。君は僕のものなんだ。ずっとずーっと前からずっとね」


魔王の証を憎しみの瞳で見る赤司さん。


「っ!赤司くん!!」


その瞬間、テツヤさんは赤司さんに杖を向け呪文を唱えた。
その呪文は聞いたことがないから、きっと火の魔法呪文なのだろう。


「―――テツヤ、」


テツヤさんの杖から出た火が赤司さんへと向かう。
そんな赤司さんは、テツヤさんに向けて目を細めた。


「君は、変わらないんだね」


その瞬間、赤司さんは闇となって消えていき、火は何も燃やすことなく消えた。


「名前様っ!!大丈夫ですかっ」


「テツヤ、さん…」


テツヤさんは私に寄って、胸元を見た。


「ああ、爪痕が残っておりますね…。生憎僕は癒しの魔法は使えないので癒しの魔法使いを呼びますね。せっかくの白いお肌に傷がっ!!今すぐ呼びますのでっ!!」


「テツヤ、さん…」


「僕の名前様がっ…!!」


「テツヤさん、落ち着いてください!大丈夫ですから!」


私の言葉に、先ほどから乱していたテツヤさんが落ち着いた。


「僕としたことが…すみません」


「いえ…」


「名前様、お着替えください。これから自己紹介も兼ねた食事会を開きます」


テツヤさんはそう言いながら、大きな扉を開け、中へと促した。
まるで、赤司さんとの出来事を無かったかのようにふるまうので、内心びっくりしている。


「テツヤさん」


「なんでございましょう」


「赤司、さんって…」


「――ああ、彼のことですか。貴女は何も知らなくてよろしいのですよ。あんな汚い血を持った赤司家のことなんて」


そう言ったテツヤさんの顔は、ゾッとするくらい笑っていた。

=====
/