魔王になっちまった。 | ナノ
僕に翼はないけれど

「名前、僕の勝ちだ」


その言葉をどこかで聞いたことのある気がした。


「君が、この世界の魔王になったんだね」


「え、なんで…」


「だってここは、代々続く神聖なる魔王の部屋だからね」


彼の赤髪が、揺れた。


「あの、貴方の名前は…」


「僕の名前?僕はね、赤司征十郎」


「赤司さん…?」


「……まあ、そうか。知らないか」


彼は一瞬悲しそうに笑ったがすぐに優しい笑みに変わった。


「名前、これだけは言っておくよ」


「え…」


「鬼ごっこは終わりだ。僕の勝ちだよ」


顔が近づいてきた、と思ったら唇に暖かいものがふれた。


「んっ…!!」


「……久しぶりの君の味だ。愛おしいよ」


するり、と頬を撫でられた。
その手つきがひどく優しくて、また涙が出た。


「あの、赤司さん…」


「ん?」


「赤司家って『大罪』の失われた貴族の赤司家ですか…?」


私が言った瞬間、彼の瞳が冷たいものにすり替わった。


「―――ああ、そうか。君も魔法歴史学を学ぶか」


ぞくり、とした。


「僕は、その赤司家の当主だ。そして『大罪』の張本人だよ」


「――っ!!!」


『大罪』。
それはこの魔法界に歴史に名を刻んだ大きな出来事。


「でもね、君にはわかってほしいよ」


「え?」


「君はこの世界の魔王にやっと…なれたんだ。だからね、僕の犯した罪はすべて、全部、何もかも君のためだということをね」


私のため?
でも、私は赤司さんに会ったことなんて一度もない。


「魔法使いはね、ほんとは醜く執着深く独占欲の強い小さい小さい生き物なんだよ」


まるで、魔法使いそのものをわかっているような言い方。
まるで、自分が経験したような言い方だった。


「―――――名前、様」


その時だった。
びっくりしたような声で名前を呼ばれた。
左を向くと、そこには執事服をきっちりと着たテツヤさんの姿だった。
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