魔王になっちまった。 | ナノ
トンネルの先で逢いましょう

なぜだか、泣きたくなった。


――――――


ふと、水が飲みたくなり目を開けた。
そこは、豪華なベッドの上で周りを見ても豪華なものばかりだ。


「……、夢じゃ、ないのか…」


今まで起きたことは夢じゃない。
そう、この景色は伝えていた。
よく見ると、胸元がはだけていた。


「…!?って、え?」


左胸には、毒々しい赤で刻まれた牡丹が咲き誇っていた。


「牡丹…?」


そういえば、この部屋にあるものすべてが牡丹をモチーフに作られている。


「牡丹は、魔王を表す花…」


そう、魔法歴史学で教えられた。


コンコン


その時、部屋の扉がノックされた。
扉を開けるために、ベッドを降りる。


「あ、鎖がない…」


テツヤさんが外してくれたのだろうか。


コンコン


また、ノックをされ急ぐために裸足で扉まで行った。


「お待たせしてまいすみません…」


ガチャリ、と大きな扉を開けた先には綺麗な顔をした青年が立っていた。


「……」


その青年の瞳が大きく見開かれる。
綺麗なオッドアイだった。


「あ、の…何か私にご用でしょうか」


「き、みの名前は…?」


やっとの思いで出したらしい、彼の声は少し掠れていた。


「白宮名前ですが…」


「―――名前…?」


どくん、と心臓が動いた。


「…え、あの」


「―――ああ、確かに君は名前だね」


目を見開いていた目の前の青年は、フッと柔らかい笑みを私に向けた。


「僕の、勝ちだよ」


嬉しそうに言う彼の言葉に、私はなぜか涙が出た。


「え、なんで涙…?」


「やっとやっと、君を捕まえることができるな」


彼の手が私の目元の涙を拭った。
その手はひんやりとして冷たかった。


「名前、僕の勝ちだ」


その言葉をどこかで聞いたことがある気がした。
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