「………ここからっスね」
目の前にあるのは、高い魔王城の壁。
どうやって入るかは計画済みだ。
「……桃っちよろしくっス」
隣にいるのは俺の友人の桃井さつき。
ということは、名前の友達でもある。
その桃っちは、特技の情報収集能力を生かしてお城でバイトをしているのだ。
「ほんと、きーちゃんって名前ちゃんのこと大好きだよね」
「当たり前っスよ!俺の全ては名前っちのものなんスから」
「小さい時からそうだったよねー」
「そうっスね…名前っちが引っ越してきた時からっスからね」
そうだ、彼女は俺が5歳の時に引っ越してきたのだ。
小さい時にいた名前の祖母は10歳の時に亡くなってしまった。
「よし、じゃあ行くよ。きーちゃん!」
「はいっス」
そうして、俺と桃っちは城の門を堂々とくぐって行った。
――――――
暗い暗い地下の一室。
そこには、この国の国宝でもある『魔法の鏡』があった。
その鏡は、歪に光を反射していた。
「……か、がみ、」
ふと、その鏡に手を触れている人物がいた。
だが、その人の顔は暗くて見えない。
「――――何してんだよ、こんなところで」
そこに、背の高い赤髪の青年が立っていた。
その青年は首元のネクタイは緩められているが、そのほかは制服をきっちりと着ていた。
その制服の左胸のポケットには、この国の象徴ともいえる牡丹が描かれていた。
「……ああ、また君か。黒子家の遠い分家の火神か」
「こんなところで何してんだよって聞いてんだよ。お前は『ここ』には来ちゃいけないはずだぜ?」
「……僕に向かってどんな口の利き方をしている」
ビュッと火神の顔すれすれで、闇の魔法が通った。
目線の先には、いつの間にか持っていた杖を向けられていた。
「(呪文を唱えてる時間なんてあったか…!?)っ、違法だぜ」
「はっ?違法?なんで?どうして?僕がここにいることが違法?」
「お前は、『大罪』を犯した。だからだろ?」
「…『大罪』ね」
彼は、フッと笑い杖を下した。
「まあいいよ、そのお話は。退屈すぎるからね」
「退屈、だと…!?お前が犯した罪はどれほど大きいかっ…!!」
「黙れ」
「!?」
「お前らが知っている罪なんてほんの少しも事実には遠い」
いつの間に移動したのか、鏡の前にいた青年はいつの間にか火神の背後にいた。
「…ねえ、それよりもさ。僕は表の世界のことが分からないから聞くけど…この城に新しいモノが来た…?」
「…新しい、モノ…?」
「そう。新しいモノ。この匂いは、誰の…?」
「今日、新しい魔王様がご就任されたんだよ…」
火神の額に汗が滲む。
少しだけ、殺気が満ちてきた。
「魔王…?」
「そうだよ、」
「魔王ね、ふーん」
ありがと、と言って火神の背後にいた人物は霧のように消えた。
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