半壊ランデブー | ナノ
prologue

それは、『キセキ』だと誰かが言った。


「……ハァハァ、」


「大丈夫でしゅか?」


腕の中のシェイミがテレパシーで伝える。


「大丈夫だよ。ありがと、シェイミ」


頭を撫でると気持ちよさそうに目をつぶるシェイミ。


「…今日は月が綺麗でしゅよ」


シェイミに言われ上を見るとそこには、雲ひとつない夜空に満月が光っていた。
その光景が綺麗すぎた。


「…綺麗だね」


その時だった。


「……よお、逃げよるなあ」


ふと、聞き覚えのある声がした。
まさか、もう追いついてるなんて!


「あんま、逃げんでもろえると嬉しいんやけど」


彼の傍らには、バクフーンとエーフィがいる。
シェイミを抱きしめる力が強くなった。


「絶対に捕まらない」


「…ボスは、怪我をさせてでもええから捕まえて来い言うてるし…」


緊張感が走る。


「バクフーン、かえんほうしゃや!!」


相手が先に技を仕掛けた。
炎が迫ってくる。
その時、私の後方から水のうずが出てきてかえんほうしゃとぶつかった。


「っ、スイクン!」


後ろを見るとそこには、伝説のポケモン、スイクンの姿があった。


「ちっ、スイクンが出てきよった」


「やられる前に早くどっかいってよ」


「…すまんなあ、それは出来んのや」


前の男が笑った。
その瞬間。


「捕まえた、名前」


この声はまさか…


「ボス!」


やっぱり、氷室辰也!!


「さすがのスイクンもシェイミも気づかなかったみたいだね」


捕まるなんて!!
…ここで捕まってはいけない!!
私は、ぎゅうっとシェイミを強く抱いた。


少女の願いは、届くのだろうか。


『キセキ』は、起こるのだろうか。


さて、物語はもう始まっている。

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