さて、どうする。
俺には、戦うアリスはない。
『視る』アリスしかない。
名前は、彼に操られているらしいし。
「高尾和成君。どうする?選択の余地はないよ」
ああ、知ってる。
俺には「はい」の答えしかない。
学園に行くことしかできない。
「なんで、ここまでして俺を学園に入れたいんだ」
「……君の能力は、珍しいからね。君のお母さんも同じアリスだったらしいし」
「俺のアリス目当てかよ」
「当たり前だ。珍しいアリスほど価値は高くなる」
和成、考えろ。
今最優先することは、名前を救出することだ。
「君のアリスは攻撃するものじゃないからね」
「……それは、どうかな」
地面に向け、アリスを使う。
初めてやることだが、きっとできるだろう。
「何をしている、高尾和成」
「何って、名前を救い出しているんだよ!」
瞬間、草陰に隠れていた野生の熊が赤髪の彼に向かって走り出した。
「なっ!」
「名前っ!」
熊が彼に攻撃している間に名前を助ける。
名前の目は虚ろだ。
「名前、名前!」
「ん、あれ?和、成……?」
「目を覚ましたか!?」
「和成、どうしたの」
さっきの事までの記憶は覚えていないらしい。
まあ、もし覚えていたとしても俺が消したが。
「――よくも、やってくれたね」
キ――――――――――――――ン。
頭が痛くなるほどの耳鳴りがする。
「まさか、記憶を書き換えることもできるとはね」
「っ、な、んで」
「ああ、熊ならそこで死んでいるよ」
彼の後ろには、おびただしい血を流して倒れている熊がいた。
「ひっ……!」
「関係ない君には、酷なものを見せたね。でも、ごめんね。僕の怒りはこれだけじゃ治まらなくて」
未だにひどい耳鳴りがする。
高い、音が鳴り響いている。
「記憶の書き換えもできるなんて、優秀なアリスではあるけども。高尾和成」
低い声で名前を呼ばれる。
「君は僕を怒らせた。君がこの世に生きる必要はない」
「は、あ?」
「和成っ!!」
名前の声がした。
近いようで、遠くで。
「和成っ!!!!!!!」
ああ、泣かないで。
赤髪の彼が嗤っている。
俺は、お前とずっと一緒にいるって。
約束したはず。
「名前、……」
消え入るような声で呟く。
そして、世界は黒に染まった。
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