「僕の言う事を利かないやつなんて死ねばいい」
征十郎くんの手が蜜柑ちゃんに触れそうなときだった。
「やめて!!」
「っ!」
私は、蜜柑ちゃんの前に立ちはだかる。
征十郎くんは、驚いて目を見開いて止まった。
「蜜柑ちゃん、大丈夫!?」
私は振り返り、地面に膝をつき、蜜柑ちゃんと同じ目線になる。
「…うちは大丈夫やけど…」
「良かった…」
「名前」
征十郎くんが私の名前を呼んだ。
「…征十郎くん。何をしようとしたの?」
「…ただの力試しだよ。その子、入学してきたばかりの『佐倉蜜柑』だろ?」
「赤司、知ってんのかよ」
「知ってるよ、高尾。こっちの方にも伝わってきてるんだよ。物珍しい『無効化のアリス』なんかね」
征十郎くんが笑った。
「でも、その子のアリスより珍しいアリスが『想像のアリス』だよ」
するりと征十郎くんの右手が私の頬を撫でた。
「…おい、名前になんかしたら承知しねぇからな」
「分かってるよ、名前の幼馴染みの高尾。僕が大事なものに傷つけるはずが無いだろう」
「征十郎くん…」
「名前、戻っておいで。君は僕のものなんだからね」
「……嫌だ」
「…どうしてさ。たとえ過去に『何が』あったとしても、僕は許すよ?」
「「!!」」
その言葉に反応したのは、私と和成だった。
「おい、赤司。なんでお前が知ってんだよ」
「…何でも知ってるよ。僕に知らないことは無い」
「っ、てめっ」
「ちょ、高尾っち落ち着いて!!赤司っちに敵うわけないんスからっ!」
「気持ちは分かりますが、落ち着いてください」
和成が征十郎くんを突っかかろうとするがテツ君と涼太に抑えられる。
「止めるなよっ、こいつは許さない。名前にそんな顔させたんだからなっ」
どんな顔をしているのだろうか、私。
泣きそうな顔をしてるのかな。
悔しそうな顔をしてるのかな。
「…名前のそんな顔も好きだよ」
過去は消せないのにね。
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