夏のある晴れた日。
外で洗濯物を干し始めた真太郎くんに声をかけた。
「真太郎くん!」
「名前か、どうしたのだよ」
「真太郎くんの手伝いをしようと思って!」
「それはありがたいのだよ」
一軒家である家のリビングから出れる庭。
籠から洗濯物を取り出し、ハンガーにかけて干す。
「……あいつらはどうしたのだよ」
真太郎くんの言うあいつらとは、私の弟たちの事であろう。
「あの子たちは、三人で仲良くゲームしてるよ」
私の言葉に真太郎くんはリビングへと目を向ける。
そこにはテレビゲームで遊ぶ弟三人。
こうやって見てれば、かわいい子たちなのにな。
「だから、お前がここにいれるのか」
「そうそう。テツヤから見える位置だしね」
じゃなきゃ、私の隣にはテツヤが必ずいる。
「それでも、俺は嬉しいのだよ」
敦のであろう灰色のパーカーを干す真太郎くんの耳は少し赤い。
「私もうれしいよ!真太郎くんと二人で」
「なっ……!!」
「あはは、真太郎くん顔が真っ赤だよ」
「〜っ!兄をからかうのではないのだよ!」
私が持っている洗濯物を横取り、ハンガーにかけ干す。
ああ、テツヤの水色のTシャツ……。
私とお揃いのTシャツ。
「――私、真太郎くんがお兄ちゃんで良かった」
「急に何なのだよ」
「ふと思ったんだよね。こうやって兄妹らしくできるのって真太郎くんだけだから。家族だなって思う」
私と真太郎くんは三人の弟たちの盛り上がる声を背後にして縁側に座る。
足元には洗濯籠に余ったハンガーと洗濯ばさみたち。
夏の日差しが照り付ける。
これなら洗濯物もすぐに乾くだろう。
「家族、か」
「うん。家族。真太郎くんと血が繋がってて良かった」
「――お前は……」
「うん?」
真太郎くんの声が少し感情的になる。
「お前は、俺を過大評価しすぎなのだよ」
「え?」
「俺は、お前と家族で良かったことなんて一度もない」
「……え?」
思ってもみなかった言葉に狼狽える。
家族でない方がよかった?
どうして?
なんで?
「お前と家族じゃなかったら――血が繋がってなかったら、こんなにも苦しい思いはすることはなかったのだよ」
真太郎くんは、サンダルを脱ぎ立ち始める。
そして、私の頭を一撫でしてリビングへと消えていく。
「……苦しい、思いをすることは、なかった……?」
その言葉の意味は、もう知っている。
嫌と言うほど、兄弟たちに自覚させられた。
だけど、こんなときに思い知らされるなんて。
「……それでも、私にとっては大切な家族なのに」
私もサンダルを脱いでリビングへと戻った。
――――――
ドラセナ…名もない寂寥