「あれ、名前。どこに行かれるのですか?」
部屋のこたつで本を読むテツヤが、視線を本に向けたまま私に声をかけた。
「ああ、征十郎くんに数学の参考書借りようと思って」
「そうですか。ここでずっと名前を待っていますから。早く帰ってきてくださいね」
ふわり、とした優しい笑みを浮かべたテツヤ。
かわいいよ!
かわいすぎるよ、わが弟!
「じゃ、行ってくるから」
「はい」
私は部屋を出て、右手に進む。
隣には真太郎くんの部屋そしてその隣には大輝の部屋。
……大輝の部屋。
確か今、大輝はお風呂に入ったばっかなはず。
「少しくらい、入るのはいいよね」
私のいたずら心が働いたのは言うまでもないよね。
「失礼しまーす」
ガチャリとドアノブを回し中に入る。
部屋の中は真っ暗なのでドア近くのスイッチを押す。
「……相変わらず、汚い」
そこらじゅうに雑誌(いかがわしいもの)や服、バスケットボール、教科書やゲームが散らかっていた。
唯一マシなのは、ベッドのみ。
「よいしょ」
セミダブルくらいの大きさのベッド。
跳ね返ってくる感じがいい。
ふと、枕が目についたので匂いを嗅いでみた。
「……なんか、大輝がよく私の枕の匂いとか嗅いだりする気持ちが分かったかもしれない」
うん、なかなかいいかも。
そう思っていると、後ろで気配がした。
「…………え、名前?」
聞き覚えのある声。
特徴のある低い声。
「!?!?!?!?!?」
「おーい、逃げんなよ」
脱出に失敗した私は、大輝にそのままベッドにまで戻された。
「なんで、俺の部屋にいんの」
「……別に、なんでもいいでしょ」
「よくねーよ」
さっきから顔が近い。
私に馬乗りになっているせいか、体重が少しかかっている。
「俺、お前が自分のベッドにいて、みっともないくらいに、興奮してんだけど」
そう言った大輝は、そのまま私に唇を合わせてきた。
「ん……っ!!んむ、」
「はあ、名前、名前、愛してる」
角度を変えて重なる唇。
固く閉じた唇をこじ開けようとする、熱い舌。
「愛してるんだよ、名前」
一呼吸おいて、大輝の唇がまた重なろうとしたとき。
「――――誰が、僕の名前を愛してるんですか?」
冷たい口調に、冷え切った瞳の我が双子の弟が部屋にいた。
「テツ……」
大輝の顔が青くなっていくのが分かる。
「名前の帰りが遅いから来てみれば、この部屋の扉が少し開いていましてね。気になって開けてみたら……大輝兄さんは、何をしているのですか?」
「テツ、落ち着こうぜ?な?」
「ど・こ・が落ち着けるのですか?大輝兄さん、歯を食いしばってくださいね」
そして、家中に大輝の叫び声が響き渡った。
――――――
チューベローズ…危険な楽しみ
thanks,愛桜様