それは、とある休日の昼過ぎの事だった。
「じゃあ、僕とテツヤと真太郎は買い物で出かけて来るから大人しくお家で僕の帰りを待ってるんだよ?」
「……分かってるよ、征十郎くん」
「ああああ!!名前!!ほんとに、ほんとに僕が行っても大丈夫ですか!?大輝兄さんと名前を二人きりにするなんて僕には心配で心配で心配で心配で……」
「テツヤ、落ち着こうか。そしてね、ほら。私に抱き付くのやめよう?」
「……今日は運悪く、敦と涼太は明日の文化祭の準備で登校しているからな。しょうがないのだよ」
そう言いながら、3人は家を出てかれこれ30分。
テツヤは最後まで私から離れようとしなかったけど、征十郎くんが無理やりはがしていったな。
「はあ、それじゃこの家の中は奴と二人っきりか」
遅めの昼食をとろうと思いキッチンに立つ。
冷蔵庫から牛乳や卵を取り出し、お肉や玉ねぎ、にんじんもとる。
「ま、あいつはどうせ部屋にいるんだし、どうでもいいよね」
呟き、にんじんの皮を剥こうとピーラーを取ろうとした時だった。
「――どうでもいいは、ひどくねぇか?」
「!?」
「お、お前の驚いた顔もいいな」
ペロリ、と赤い舌で唇を舐める。
後ろには、奴――上から3番目の兄、大輝がいた。
「っ、急に、声をかけないでよ」
「別にいいだろ」
「あーそうですね。ほら、用がないなら、早く部屋に戻って」
「……」
大輝に構うことをやめた私は、前を向きにんじんの皮を剥く。
だが、急に黙った大輝に疑問を持ち、振り返る。
すると、目の前に青が迫っていた。
「んっ……!!」
「俺を、構えよ。俺と二人っきりなんだぜ?名前チャン」
不意打ちにキスをされた。
「うっさい」
「強気なのは、今のうちだぜ」
「きゃっ!ちょ、何すんの!」
大輝は私をいきなり抱き上げたかと思うと、リビングの方へとそのまま歩みを進める。
いつもより高い視界に、少し涙が滲んできた。
「だい、き!」
ドサリ、と大きな音を立てて落とされた場所はソファの上。
しかも、征十郎くんのいつも座る場所だ。
「お前にさ、良く教えとかねーと思ってよ」
ぷち
「ちょ、大輝!?やめてよ!」
ぷち
「お前は、誰のものか……俺のものだってことをよ」
ぷち、と赤のチェックシャツのボタンを外される。
どんなに暴れても、男でしかも2m弱のやつに押さえつけられたら逃げることなんてできない。
「大輝!?ね、やめよう!?」
「――名前、愛してるぜ?」
「大輝????君はね、今ね、頭がおかしいんだよ?分かる?頭の悪い君でも分かるかな?」
「ん、」
首筋に顔を埋める大輝。
「ちょっとおおおおおお!やめよう?ね?ほら、兄妹でさ、この線を越えちゃいけないと思うんだ」
「愛してる」
強く吸われて、痛みが走った。
何がつけられたのか分かっている。
その痕を見つめる大輝は、恍惚の表情を浮かべていた。
「大輝!?ね、やめよう?ここまで、ここまでは、私も許してあげるからさ!」
「俺だけを、俺だけを、好きになれよ。俺だけを見つめろよ。俺だけを愛せよ。俺だけを感じろよ。俺だけを俺だけを。俺だけを、生きる糧にしろよ」
何を、言っているんだろうと思った。
私を見つめる大輝の瞳は、今にも泣きそうで。
だけど、私を欲している欲情した瞳だった。
「俺に、お前からの愛をくれよ」
大輝に言葉を紡ごうと開いた口は、大輝の口によって閉じられたのだった。
――――――
アストランチア…愛の渇き
thanks,夏輝様