僕の中に初めて生まれた感情は、嫉妬だった。
僕と同じ日に生まれた名前。
兄から、かわいがられる名前。
すぐ下に生まれた双子の弟からもかわいがられる名前。
幼いながらもイラついたのを覚えている。
それが嫉妬だと気づいたのは、名前と二人きりになったとき。
「名前っ」
ぎゅうっと離れないように抱きつく。
「なに、テツヤ。暑苦しいよ」
「離れません!」
ああ、なんで名前が僕の腕の中にいるだけでさっきのイライラがなくなるのだろうか。
名前名前名前名前名前。
大好き大好き大好き。
愛してる愛してる。
僕のたった一人のもう一人の僕。
家族の中で一番繋がりが深い名前。
「名前大好きです」
僕がそう言うと必ず、名前は笑って「私もだよ」って返す。
「だから、一生離してあげませんからね」
「え、」
「かわいいかわいい僕の名前。僕のことはなんでも知ってる名前。ああ、僕も名前のことはなんでも知ってますよ」
姉弟?
双子?
近親?
禁忌?
そんなの関係ありません。
それは、世間の話です。
僕らには関係ありません。
結婚なんてできなくていいんです。
ずっとずっと一緒にいるんだったら、そんな紙切れの約束なんていらないと思うんです。
まあ、ほかの兄弟もそう思ってますよ。
「…ねえ、名前」
「なに?」
「なんで、こんなにぼくを捕らえて離さないんですか」
「ええ?」
「ずっとずっと僕は名前に囚われたままなんですよ」
生まれた時から。
いや、母さんの腹の中にいた時から。
「愛してますよ、名前」
だから、僕と同じくらい愛を返してください。
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キク…深い愛