零れた倖せの行方
それでも好きなものは好きだったのだ。
「シン」
その声で、その笑顔でオレの名前を呼ぶお前がどうしようもなく好きだったのだ。
「ねえ、お前。なんでトーマ選んだの?」
「……シンがそんなこと聞くの?」
公園のベンチに座りながら、聞くと質問で返された。
「オレが聞いてんだけど」
「あ、そう、だよね。んと、なんていうか。シンなら私がトーマを選んだ理由がもう分かってるんじゃないかと思って」
彼女の言葉に目を見開く。
その言葉を聞いてもやっぱり、オレはお前が好きなのに。
「――ああ、知ってる。十分なくらいに知ってる」
「やっぱり」
そう言って笑うお前。
その笑顔をオレのものにしたかった。
オレの隣だけでその笑顔を見せて欲しかった。
オレのためだけに笑顔を向けて欲しかった。
そう思っても、彼女はもうトーマのもので。
トーマに勝てっこないことは随分前から知っていた。
「ねえ、お前幸せ?」
「うん、幸せ」
お前の笑顔が見れるならまあいいかと思った。
それでも、どうしようもなくオレはお前のことが好きなんだ。
title by瑠璃
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