notebook2 | ナノ

僕らは知らない、知ることはないだろう



※意味不明なお話
 倉庫内の8月某日の話。の続きっぽくもあったり



「死ぬのかい?」


ため息をついたとき、後ろから声をかけられる。
振り返るとそこには、真っ青な空に不釣り合いの赤が揺れていた。


「――こんなところにどうしたの?赤司くん」


「とある女子生徒が、立入禁止の屋上へと行くものだから気になってね」


赤司の赤の瞳に見つめられる。
私の心を見透かしてそうなその瞳に、隠れるように焦った。


「その女子生徒が、知り合いだったら気にしないんだが、生憎知り合いじゃおさまらない人物だったからね」


「……それは、お礼を言うべきかな?あくまで、私は赤司くんの中じゃ知り合い以上の立ち位置のようだからね」


私は、手に持っていた紙をぐしゃりと握る。
皺になろうと関係なかった。


「――なんで、来たのさ」


「おや、僕が君に聞いた質問は正解だったな」


赤司くんは、腕を組み頷いた。


「あーあ、せっかくのテストが皺くちゃになっちゃった」


「それは、今日配られた数学のテストだろう?また、ダメだったのか?」


「……赤司くんだったら知ってるでしょう?いつも、私の隣にいるんだから」


赤司くんは、私の言葉に一瞬目を見開いたが、すぐ瞳を閉じ「そうだな」と言った。
その表情は、バスケの時に見る彼の厳しい表情じゃない。
とても優しい表情だった。


「その僕の隣の席の子が、なんでこんなところにいるんだ?」


「――案外、赤司くんって残酷だよね」


私は、赤司くんから視線を外し、柵越しに見える雲一つない青い空を見上げた。


「君がいないと、愉快な日常が失われてしまうものだからな」


こつり、と靴音が響いた。


「僕は、意外と君との日常が好きなんだよ。ひどい点数のテストも君にかかれば楽しいに変わるからね」


また、こつりと靴音が響いた。


「――本当にひどいよ、赤司くん」


振り返った先に赤がいた。


「ひどくても、いいよ。残酷でもいいよ。君が何のために何を思って、飛び降りようとしているのかは分からないが――知りたくもないが、僕は君を止めなきゃいけない義務があるんだ」


「赤司くん、離して」


腕を掴まれる。
振りほどこうとしても離れない。
せっかく、覚悟を決めたのに。
せっかく。


「君は、僕の大切な友人なんだ。ここで、見過ごしたら涼太に怒られる。テツヤに怒られる。大輝に真太郎に敦に、さつきに怒られるよ」


「赤司くん、お願い」


「――――――逝くなよ、名前」


その声は、しっかりと私の脳に響いた。
だけど、私の心には響かない。
無理やり、赤司くんの腕を外す。


「名前!!」


赤司くんが叫ぶ。


「――こんな最後でごめんね。赤司くん、私も赤司くんのこと大切な友達だと思ってるよ」


「名前!!」


「私が、死んでもみんなのことよろしくね。あーあ、みんな怒るよね。ごめんね、ごめんね赤司くん」


「名前、やめろ」


赤司くんに向き直り、青空に背を向ける。
ああ、黒子くんみたいな空で良かった。


「ごめんね、君を巻き込んで。ありがとう」


赤司くんの目を見開いた顔が見えた。
その瞬間、私は青い空中へと放り出される。


「名前−−!!」


これで、作戦が成功すればいい。
これで、みんなが。
みんなが――……


BGM:透明アンサー/じん

title by誰花

back