僕らは知らない、知ることはないだろう
※意味不明なお話
倉庫内の8月某日の話。の続きっぽくもあったり
「死ぬのかい?」
ため息をついたとき、後ろから声をかけられる。
振り返るとそこには、真っ青な空に不釣り合いの赤が揺れていた。
「――こんなところにどうしたの?赤司くん」
「とある女子生徒が、立入禁止の屋上へと行くものだから気になってね」
赤司の赤の瞳に見つめられる。
私の心を見透かしてそうなその瞳に、隠れるように焦った。
「その女子生徒が、知り合いだったら気にしないんだが、生憎知り合いじゃおさまらない人物だったからね」
「……それは、お礼を言うべきかな?あくまで、私は赤司くんの中じゃ知り合い以上の立ち位置のようだからね」
私は、手に持っていた紙をぐしゃりと握る。
皺になろうと関係なかった。
「――なんで、来たのさ」
「おや、僕が君に聞いた質問は正解だったな」
赤司くんは、腕を組み頷いた。
「あーあ、せっかくのテストが皺くちゃになっちゃった」
「それは、今日配られた数学のテストだろう?また、ダメだったのか?」
「……赤司くんだったら知ってるでしょう?いつも、私の隣にいるんだから」
赤司くんは、私の言葉に一瞬目を見開いたが、すぐ瞳を閉じ「そうだな」と言った。
その表情は、バスケの時に見る彼の厳しい表情じゃない。
とても優しい表情だった。
「その僕の隣の席の子が、なんでこんなところにいるんだ?」
「――案外、赤司くんって残酷だよね」
私は、赤司くんから視線を外し、柵越しに見える雲一つない青い空を見上げた。
「君がいないと、愉快な日常が失われてしまうものだからな」
こつり、と靴音が響いた。
「僕は、意外と君との日常が好きなんだよ。ひどい点数のテストも君にかかれば楽しいに変わるからね」
また、こつりと靴音が響いた。
「――本当にひどいよ、赤司くん」
振り返った先に赤がいた。
「ひどくても、いいよ。残酷でもいいよ。君が何のために何を思って、飛び降りようとしているのかは分からないが――知りたくもないが、僕は君を止めなきゃいけない義務があるんだ」
「赤司くん、離して」
腕を掴まれる。
振りほどこうとしても離れない。
せっかく、覚悟を決めたのに。
せっかく。
「君は、僕の大切な友人なんだ。ここで、見過ごしたら涼太に怒られる。テツヤに怒られる。大輝に真太郎に敦に、さつきに怒られるよ」
「赤司くん、お願い」
「――――――逝くなよ、名前」
その声は、しっかりと私の脳に響いた。
だけど、私の心には響かない。
無理やり、赤司くんの腕を外す。
「名前!!」
赤司くんが叫ぶ。
「――こんな最後でごめんね。赤司くん、私も赤司くんのこと大切な友達だと思ってるよ」
「名前!!」
「私が、死んでもみんなのことよろしくね。あーあ、みんな怒るよね。ごめんね、ごめんね赤司くん」
「名前、やめろ」
赤司くんに向き直り、青空に背を向ける。
ああ、黒子くんみたいな空で良かった。
「ごめんね、君を巻き込んで。ありがとう」
赤司くんの目を見開いた顔が見えた。
その瞬間、私は青い空中へと放り出される。
「名前−−!!」
これで、作戦が成功すればいい。
これで、みんなが。
みんなが――……
BGM:透明アンサー/じん
title by誰花
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