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Anamnesis is over the rose



※死ネタあり


すべてが自分のせいだと気づいたのは、だいぶ、時が流れたあとだった。


「……しょうがない、と片付けるのですか」


「そう、だね」


彼女の手には、一本の小さなナイフ。
そのナイフは彼女の首に当ててある。


「僕は正しい選択をしました。選択をしたはずです。いいえ、正しい選択でなければなりません」


彼女は、僕を哀しそうな瞳で見る。
彼女のそんな瞳を見るのはもう見飽きた。


「まったくもって、自意識過剰だね」


「褒め言葉、として受け取っておきましょうか」


「受け取らなくていいよ。だって、私は君にもう何もあげられないんだから」


「……あなたのその言葉の方が自意識過剰じゃありません?」


彼女は、ナイフの切っ先を皮膚に食い込ませる。
そして、嗤ってみせた。


「は?何度も言ったよね?私が君を好きだと言った覚えは何一つないと」


「そうでしたか?僕は確かにこの耳で聞いたことはありますが」


彼女の手にしたナイフがとうとう皮膚を食いちぎった。
ああ、あなたの血が流れる。
もったいない。
這いつくばってでもいいから舐めたい。


「――黒子くんではなく、彼、に対して、ね」


血しぶきが目の前で舞う。
それが少し花びらのように見えた。
そんな綺麗な死に方をするのですね、あなたは。


「まったくもって、自意識過剰なんですよ。あなたは昔から」


倒れた彼女に身を寄せる。
赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い赤い彼女の血。
とても愛おしいくらいの赤。


「しょうがない、ことじゃないですよ。あなたが死ぬことは。僕にとってはしょうがない、じゃ片付けられないんですよ」


彼女に触れる手が震える。
そこでやっと気づいた。
僕は彼女が死ぬことが悲しいんだ。
僕の頬に一粒の涙が流れた。


「あなたは、ざまあみろって思ってるんですかね。ええ、思ってますよね。想像できます。だけど、だけど」


僕はそんな彼女の感情でさえ、愛しさを覚えるんです。


そして、後悔をした。


Anamnesis is over the rose
(追憶は薔薇の上)
title by誰花

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