櫻籠り哀歌

「君に『業』をあげる」―捌 

彼の言葉がどれだけ私を救ったか。
貴方は、知っているでしょうか。


――――――


「――怖くないですよ」


「え、なんで…!!話を聞いたんでしょう!?」


「聞きました。ですが、僕は貴女たちが衝動でそんなことをするはずがないと思いました。ちゃんと理由がある、と」


彼の言葉に目を見開いてしまう。
なんで、だろう。
その言葉で、何かが救われた気がした。


「そうでしょう?」


「―――うん、理由ならちゃんとあるよ」


「それを、僕に話してはいただけませんか?」


「え、」


「無理だったらいいです」


びくり、とした。
だってまさか理由を聞こうとするなんて…


「だったら、また次会えたら教えてあげるよ」


「え?」


「また、君に逢えたら教えてあげる。私たちのことも、あの夜のことも」


私は、彼を真っ直ぐに見て言う。
綺麗な、空色の瞳。


「…綺麗な、空色の瞳ね」


なんでも、吸い込まれてしまいそう。


「……僕は、この空色が嫌いですよ」


「どうして?こんなにも澄んだ綺麗な空色なのに。羨ましいよ」


私は、無意識に彼の頬を撫でた。


「えっ」


「あ、ごめん…!!」


「い、いえ」


どきりとした。
急に彼女が、僕の頬を触ってきた。
異様に冷たい手だった。


「……でも、ありがとうございます。貴女のその言葉で、僕はこの色を好きになれそうですよ」


本心だった。
彼女の言葉は希望を与えてくれる。


「――では、さよならしようか」


「行かれて、しまうのですか…?」


「うん。兄が待ってるし」


「また、会ってくださいますか?」


「それはどうだろう。運命にかけようか。私と、君の運命に」


私は、彼に背を向ける。
彼が声をかけようとも私は足を止めることはしなかった。


「(――だけど、絶対に逢える気がする)」


私は空色を思い浮かべながら帰路へと着いた。