櫻籠り哀歌

「君に『業』をあげる」―漆

君と出会った、あの冬をもう一度。


――――――


隣で寝ている櫻を起こさぬように、私は立ち上がる。


「……なんか、桜が見たくなった」


確か、今日は桜のお祭りだ。
だったら今日が一番咲き誇っているだろう。


「すぐ、戻るね」


櫻の綺麗な黒髪を一撫でして、玄関へと向かった。


――――――


「やっぱり、雪が積もってるから冷えるね…」


桜までの道のりを雪を踏みしめて歩く。
まだ、今は晴れていてよかった。


「あ、桜咲いてる……」


桜が見えた瞬間、他の人がいるのが見えた。
私は、警戒をして逃げようと思ったが、私の気配を感じ取ったのか人影は振り向いた。


「―――ああ、貴女、ですね。綺麗な黒髪の少女は…」


振り向いた人物は、綺麗な空色の髪に空色の瞳だった。
桜の背景の空みたいに澄んだ空色だった。


「あ、の…」


恐る恐る口を開く。


「今は、布をかぶっていないのですね」


そこから、ピンッときた。
彼はまさか私がぶつかった相手…?


「ずっと、あのぶつかった時から貴女に逢いたいと思っておりました」


さっきから変えない無表情が、今の言葉とともに崩れ、微かに笑った。


「え、あの…」


「――僕は黒子、黒子テツヤ。この国の陰陽師の家系を引き継いでいます。貴女は…名前さん、でよろしいですね?」


「な、なんで名前を…!!」


「――村長が話してくださいましたよ」


その言葉を聞いた瞬間、私はいつでも攻撃ができるように身構える。


「でも、大丈夫です。僕は貴女を殺しにも来たわけではありません。純粋に貴女に逢いたかったのですよ」


優しい声音だった。
私は警戒を解く。


「――綺麗な桜ですね。どうです?一緒に花見をいたしませんか?」


優しい声に私はつられ、彼―黒子テツヤの隣へ行く。


「この桜はわが国で珍しい、冬に咲く桜です…初めて見ました」


「――この桜は、私たちを見守ってるの」


「え?」


「この桜は、私たち双子をずっとずっと見守っててくれた。大切なものだよ」


いつも、守ってくれた。
本当に生きているみたいに。


「――貴方、私のこと怖くないの?村長から話を聞いたんでしょう?あの夜のことも、私たちのことも」


「ええ、聞きましたよ」


「怖くないの?なんで、殺そうとしないの?」


真っ直ぐ、彼の瞳を見る。
櫻以外でこうやって人の瞳を見るのはいつ振りだろうか。
彼が口を開いた。