櫻籠り哀歌

「君に『業』をあげる」―陸

君に愛を、僕には願いを。


――――――


寒い。
ああ、雪でも降っているのか。


「――あの日、僕らは世界を敵に回したんだよ」


急に、櫻の声が聞こえた。
隣にいる櫻は、私と一緒の布団に包まって体を温めている。


「……急に口を開いたと思ったら、その話?」


「ふと、思ったんだよ。だって名前は僕から離れられないんだから」


「――そうだね、私は一生櫻から離れられないね」


あの日のことは、もう思い出したくもない。


「でも、櫻があんなことしなくても良かったんだよ。すべては私が悪いのに」


「――名前の罪は僕の罪だよ。同じことだよ」


今でも覚えている、周りの炎。
そして私の目の前に立つ櫻の背中に、恨むような憎しみの常がこもった瞳を私たちに向けてくる村人。


「でも、あれは…!!」


「名前」


「!」


「あれは君のせいでもない。そして僕のせいでもないよ。世界のせいだよ」


いつから、太陽と月はあんなに高くに上ってしまったんだろう。


「名前はいつだって僕の太陽だよ」


「さ、くら…」


「両親が生きていたころ、僕はずっと地下にいた。日の届かない真っ暗な地下に。その時に君が外の話をしてくれるから、その時から…いや生まれた時から名前は僕の太陽なんだよ」


ふわり、と優しい櫻の匂いがした。


「――僕はずっとずっと孤独だったから」


ねえ、なんでこんなに世界は私たちにひどいんだろう。
私たちは望んでこんな力を持った訳じゃないのに。
ねえ、どうして。


「名前、愛してる。一生、ずっと離さない」


ちゅっと唇に口づけされる。
その行為に、顔が赤くなるのが分かった。


「名前、僕の愛しい愛しい唯一の家族」


どん、と押し倒された。
目の前には櫻の綺麗な群青色の瞳に天井。


「ちょ、櫻!?」


「ん?なに?」


「待って、何をしようとするの!?」


櫻は私の首筋に顔を寄せる。


「何って、愛し合おうと思って」


「私たちは、兄妹だよ…!」


「――それが何?」


「え?」


否定する櫻の言葉に驚いた。


「兄妹なんて関係ないよ。僕らは人間じゃないんだ。そんな人間の決め事なんて関係ないでしょ?」


また、口を塞がれた。
私はいつまでたっても櫻には勝てない。
このまま流されるだけだった。