櫻籠り哀歌

「君に『業』をあげる」―伍

年端のいかない双子の兄妹は、たった1日で世界を敵に回した。


――――――


「―――あの忌々しい双子は、この村の半数を一夜にして殺し、火の海にしたのです」


綺麗な黒髪が、揺れ動く姿が未だ脳裏から離れられないでいた。


「静かな、雪の降る夜でした。いきなり、怒号が村中を襲ったのです。慌てて起きて外に出るとそこは、もうすでに火の海でした」


女も子供もみんな逃げ回る。
逃げ回る女や子供を手を出さずに殺している小さい子供が、火の中心に立っていた。


「元々、物珍しい黒髪の双子でした。両親は普通の人で。その双子には摩訶不思議な能力があり、村から恐れられていました。摩訶不思議な能力と言っても何か物を動かす程度のものでした。その双子のうちの兄―櫻は、体が弱いのか分からないですが外には出ず、双子の妹―名前のみが外で出て遊んでいるという状況でした。その日の昼も元気よく走り回っていたのを覚えております」


そんないつも通りの平和な日に起こった出来事だった。


「今まで見たことのなかった、双子の兄がその夜、外に出ていました。群青の瞳が怪しく光っていて、炎を操っているようでした。妹は、そんな兄の後ろにいて泣きながら兄に縋り付いていました」


『やめて』と何度も叫んでいた。


「その兄は、摩訶不思議な力を使い、人をみな殺していた。村中は血だらけで、叫び声や、狂ったような声も聞こえました。よく見ると、その双子の顔や、口元、着物手に至るすべてに血が付着していました」


妹は未だに泣き続け、叫んでいた。


「そして、朝日が昇るころ双子の兄は倒れ、惨劇は終わりました。未だに残る火の海。その中心には倒れる双子の兄とその兄に泣きつく妹の姿でした。生き残った村人たちはその双子を殺そうとしました。もちろん私もです。ですがその時でした」


村中のみんなが双子を殺そうと、斧や鎌、包丁、などいろいろ持って来ていた。
そして、振りかざしもうすぐでその双子の当たろうとした時だった。


「その瞬間、不思議な光が双子を包んだんです。その光の源は双子の妹の方で、力強い瞳で私たちを睨んでいました。兄と同じ群青色の瞳でした」


『櫻は絶対に殺させない!無くさない!』
そう、少女が叫んだ。
妹は、双子の兄をおぶって、炎の中へと入り山へと向かった。


「そんな恐ろしい夜でした。なので、私たち村人は黒髪の双子を恨んで嫌っているのです」


「―――なるほど、そうでしたか」


恐ろしい話だった。
途中寒気まで。


「ははは、こんな暗いお話しをしてしまいましたね。祭りの時間までまだあります。桜でも見てきたらどうですか?」


「お言葉に甘えることにします」


歩いて行った先で、運命を見つけることになるとは思わなかった。