櫻籠り哀歌

「君に『業』をあげる」―肆

世界がたとえ僕らを引き離そうとしても、僕は絶対に離さない。


――――――


外にたくさんの雪が積もろうとしている季節。
この村には、他の土地にはない冬に咲く桜の木があった。
その桜の木を尊ぶ祭りを指揮する陰陽師として、この国に一つしかない僕ら黒子家がお呼ばれした。


「――それにしてもなんで僕なんですかね」


唯一の子息として僕が来たわけだが。
そろそろ、飽きてきた。


「(…こんな時に頭に浮かぶのは、昨日ぶつかってしまった黒髪の少女のこと)」


今まで見たことがない黒髪。
とても綺麗だった。
あのまま追いかければよかったと後悔しても遅い。


「――テツヤ様、どうされたのですか?」


僕の溜息がこの村の村長に聞かれていた。


「…いや、この村には物珍しい黒髪の少女がいるんだなと思いまして…」


僕が口にした瞬間、村長は目を見開いた。


「っ、え、まさか黒髪の女に会ったのですかっ!?」


「え、はい。僕の不注意でぶつかってしまいまして…」


「大丈夫ですか!?どこか呪われたりは…!?くそ、あの忌々しい双子め。また懲りずに村に降りてきてたのか…」


初老の村長が怖い顔をする。
そのかわりぶりにびっくりした。


「――双子?」


「え、ええ。まあ。テツヤ様が会ったのは、黒髪の双子のうちの少女の方、名前、ですね」


「黒髪が二人も…」


「でも、その双子は呪われた忌々しい双子でございます。この村を、この村をっ―――!!」


「村長!?」


頭を抱え込んで床にしゃがみ込む村長。
慌てて僕は駆け寄る。


「くそ、殺しておけばよかったっ!!!」


恐ろしい言葉を口にする、村長。


「あの、その双子はこの村に何をしたのですか…?よろしければお聞かせください」


村長は、震えながら唇を開いた。


「―――あの忌々しい双子は、この村の半数を一夜にして殺し、火の海にしたのです」


それは、この村の忘れられない脳裏に焼き付いた夜の話だった。