櫻籠り哀歌

「君に『業』をあげる」―参

世界が僕らを嫌うなら、僕らも世界を嫌おうと思った。


――――――


「はあっ、はあっ」


息が切れる。
久しぶりに走ったせいか、とても疲れている。
どうしようどうしよう。
この黒髪を見られた。
顔は見られてないと思うが…


「この黒髪は、珍しいから…」


この村では私と櫻しかいない。


「櫻に怒られるかな…」


私は、苦しくても走って櫻の元へと向かった。


――――――


ガラガラ…


家の扉が開く音が聞こえた。
そのあとに走っている足音。
名前、どうしたんだ?


「櫻っ!!!」


勢いよく、日の入らないこの部屋の扉を開け名前が入ってきた。
その勢いのまま、名前が抱き付いてきた。


「…っ、どうしたの名前」


「櫻、櫻櫻櫻」


狂ったように僕の名前を呟く名前。
微かに泣いている。
そして、ふわりと僕のものでも名前のものでもない匂いが香った。


「―――名前、誰に会ったの?」


「っ、櫻、私、知らない人とぶつかっちゃって…」


「まさか、頭に被せた布が取れたの!?」


「うん…でも、顔は見られてないし、この村の人間じゃなかったから…」


「…そう」


だから、こんなにも焦っていて泣いていたのか。


「――だから行くなと言ったんだよ。また、君は傷ついただろう?ずっと僕の元にいればいいんだ。食事なんて、名前は僕と同じものを食えばいい。双子なんだから」


「っ、でも、私っ…」


まだ狼狽えている名前に、ため息をつく。


「まだ、人間でいたいの?」


「―っ!」


「ねえ、名前。もう無理だよ。僕らは人間じゃない。人間とは違って摩訶不思議な能力を持っているんだ」


「だけども!」


「あの日のこと、覚えてるでしょう?」


びくり、と肩を揺らす名前。
動揺しているのが分かる。


「あの日から、僕らは人間じゃなくなったんだよ」


安心させるようにぎゅうっと力強く抱きしめる。
そうすると、名前も答えてくれた。


「僕らは、二人でいなきゃダメなんだ。絶対に離れてはならないんだよ」


そうして、孤独になって世界に僕たち二人だけがいればいいんだ。