世界が僕らを嫌うなら、僕らも世界を嫌おうと思った。
――――――
「はあっ、はあっ」
息が切れる。
久しぶりに走ったせいか、とても疲れている。
どうしようどうしよう。
この黒髪を見られた。
顔は見られてないと思うが…
「この黒髪は、珍しいから…」
この村では私と櫻しかいない。
「櫻に怒られるかな…」
私は、苦しくても走って櫻の元へと向かった。
――――――
ガラガラ…
家の扉が開く音が聞こえた。
そのあとに走っている足音。
名前、どうしたんだ?
「櫻っ!!!」
勢いよく、日の入らないこの部屋の扉を開け名前が入ってきた。
その勢いのまま、名前が抱き付いてきた。
「…っ、どうしたの名前」
「櫻、櫻櫻櫻」
狂ったように僕の名前を呟く名前。
微かに泣いている。
そして、ふわりと僕のものでも名前のものでもない匂いが香った。
「―――名前、誰に会ったの?」
「っ、櫻、私、知らない人とぶつかっちゃって…」
「まさか、頭に被せた布が取れたの!?」
「うん…でも、顔は見られてないし、この村の人間じゃなかったから…」
「…そう」
だから、こんなにも焦っていて泣いていたのか。
「――だから行くなと言ったんだよ。また、君は傷ついただろう?ずっと僕の元にいればいいんだ。食事なんて、名前は僕と同じものを食えばいい。双子なんだから」
「っ、でも、私っ…」
まだ狼狽えている名前に、ため息をつく。
「まだ、人間でいたいの?」
「―っ!」
「ねえ、名前。もう無理だよ。僕らは人間じゃない。人間とは違って摩訶不思議な能力を持っているんだ」
「だけども!」
「あの日のこと、覚えてるでしょう?」
びくり、と肩を揺らす名前。
動揺しているのが分かる。
「あの日から、僕らは人間じゃなくなったんだよ」
安心させるようにぎゅうっと力強く抱きしめる。
そうすると、名前も答えてくれた。
「僕らは、二人でいなきゃダメなんだ。絶対に離れてはならないんだよ」
そうして、孤独になって世界に僕たち二人だけがいればいいんだ。