世界がこんなにも僕らを嫌っていたなんて思ってもいなかった。
村に出る。
どれくらいぶりの村だろうか。
「……なんか、みんな忙しそう」
というか、賑わっている。
何かのお祭りだろうか。
「それよりも、必要なものだけ買ってさっさと家に帰ろう」
私は、顔が見られないように布を頭にかける。
「ほんとに、今日はおめでたいわね!」
「そうね!なんと言ってもかの有名な黒子家のご子息が来てくださっているのよ」
「もー、はやく行きましょう!お目にしたいわ!」
黒子家…?
知らない名字だった。
このご時世、家柄が重要だ。
「…それでも私には関係ないことか」
こんな煌びやかな現実とはかけ離れた生活をしているんだもの。
関係ない。
私にはたった一人、櫻がいてくれさえすればいいの。
「早く、買って帰ろう」
私は足早に市へと向かった。
――――――
「(やっと買えた…。みんなにばれないで良かった)」
早く、帰ろう。
櫻が待ってる。
そんな時だった。
ドンッ…
誰かにぶつかってしまった。
「あっ、大丈夫ですか!?」
布がはらりと落ちる。
荷物が転がる。
「すみません、大丈夫です…」
私は慌てて布を取り、髪に被せる。
私がぶつかった人はきっと声からして男の人だろう。
「(そんなことよりも、村の人たちにばれなくてよかった)」
「…あ、の」
「すみません、急いでいるので失礼いたしますね」
私は、その人の顔も見ずにその場を小走りで去った。
ふわりとした、不思議な匂い。
お香だろうか?
でも、そんなことに構っていられず走り出した。
――――――
「―様!テツヤ様!」
使いの者の声がする。
僕は、さっきぶつかってしまった少女の背中をずっと見ていた。
「テツヤ様!」
「あ、はい」
「急にいなくならないでください!」
「すみません…」
「それよりもこんなところで立ち止まってどうされたのです?」
使いの者は不思議そうに聞いてきた。
「―――綺麗な、黒髪の女性とぶつかってしまったのですよ」
この世で珍しい綺麗な漆黒の黒髪だった。
僕は、未だにその黒髪が忘れられないでいた。