櫻籠り哀歌

夢はきれいに潰れてしまった

幸せな夢を見続けるのはもう、諦めたのだ。


――――――


「―――ほんと、最悪な状況だな」


静まり返った闇の空間に一人の声が聞こえた。


「ああ、なに。花宮家の真じゃないか。刀を持ってきてくれたの?」


「持ってきたぜ、」


そこには、2本の刀を抱えている花宮真の姿があった。


「ありがとう、とだけでも言っておこうか」


花宮は、あたりを一旦見渡し、眉間にしわを寄せた。


「この状況だと、辰也様をお前は喰らったってわけだな」


「うん、正解だよ。そして、黒子テツヤと僕の大切な名前と君の大切な涼太はそれぞれ夢を見ているよ」


「はっ、誰が大切だよ。こいつは、裏切者なんだからな」


花宮は寝ている涼太の近くによる。
そして、腹を蹴った。


「こいつのせいで、俺は俺は…!!俺は、名前との唯一が消えたんだ」


「……君は、本物の珠を持っていたんだっけ」


「そうだ。まあ、お前のせいでもあるか」


きっ、と櫻を睨む花宮。
それに櫻は、笑うだけだった。


「あはは!そうだね!僕のせいでもあるね!君が『選ばれなかった』からね」


「………『選ばれなかった』じゃねーだろ。『選ばなかった』だろ」


「あれぇ?ばれてた?あはは!そうだよ!『選ばなかった』んだ!だって、君は花宮家だもの」


声が低くなった。


「君は、花宮家だろう?失われた。松奏院家を売った、花宮家だろう?そして、親に売られて、僕の獲物になったんでしょ?自業自得だよね!!君も一応、花宮家の正統な後継者だからね、丁寧に扱ってあげてたんだよ。あの牢屋でね」


高らかに笑う櫻の腕の中で名前が動いた。


「ああ、もうそろそろ起きる時間だね。ごめんね、名前。うるさくしちゃって」


「―――気持ち悪い、な」


「――――は?」


優しくする櫻に、ポツリと花宮が呟いた。


「兄妹なのに、気持ち悪いな」


「―――ねえ、お前何を言ってるの」


「血の繋がっている兄妹なのに気持ち悪いっつったんだよ」


また、見えない何かが舞い、花宮を切りつけた。


「ねえ、怒るよ。お前は、僕に生かされている存在だってことを忘れるな。お前ごときなんて、ほんとはあの時、牢屋に来た時に殺せたんだよ。なぜそうしなかったかって?名前のためだよ。お前にはね、名前の護衛になってもらわなきゃだからね、生かしてあげてたんだよ。それをよく頭に叩き込んどけ」


冷たい、今すぐ殺しそうな瞳だった。
群青の瞳がこんなにも冷たくなるものかと思った。


「…そういえば『気持ち悪い』だっけ?そんなの、僕と名前には関係ないことだよ」


冷や汗が流れる。
遠くで何かが近づいてくる音がした。


「――ねえ、名前。君が僕だけを見てくれればそれでいいんだよ」


群青の瞳が優しく細められた。